『メイドインアビス』はなぜ過酷描写を続けるのか? 根底にある“未知の世界”を探求する楽しさ

 「ワクワクする自殺」

 原作者のつくしあきひとが『メイドインアビス』について語っている時に出てきた言葉に、これほど本作を表すのにしっくりとくる表現もないと膝を打った。そんな難しい題材を取り上げた作品だからこそ、映倫のレイティングの区分が問題となるのは当然のことなのかもしれない。

 『メイドインアビス』は、つくしあきひとの漫画作品を原作としたアニメーションだ。2017年にテレビシリーズが放送され、前後編と2作の総集編映画を経て制作された新作が劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』だ。50館という公開規模ながらも、話題作が並ぶ興行収入ランキングでも初週9位を記録している。世界に残された唯一の秘境とも呼ばれる大穴、アビスの奥深くを目指し探検する少女リコと、記憶を失ったロボットの少年レグを中心とした冒険が物語の主軸となっており、今作ではテレビシリーズの後の物語が展開されている。

 当初、本作は小学生に見せるには問題のある描写があるものの、保護者の指導があれば鑑賞できるPG12での公開が予定されていた。予告編でも映倫マークはPG12となっており、誰でも鑑賞できるように制作側も表現を配慮していたことが想像できる。しかし公開1カ月前を切った12月25日、R15にレイティングが変更されたことが発表され、鑑賞できなくなった15歳以下の観客へ前売り券の返金対応を発表している。

 アニメ映画においてバイオレンス描写でR15指定されることは頻繁にあるわけではないが、過去にも例は存在する。近年では『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』が、映倫のコメントによると「刺激の強い殺傷・肉体損壊の描写がみられる」という理由でR15に指定されている。一方で『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」II.lost butterfly』が「殺傷流血の描写がみられる」ほか、2020年に公開された『巨蟲列島』では「数々の残酷描写やエロティックな表現が見られる」とあるものの、この2作品のレイティングはPG12に抑えられている。また『劇場版総集編 メイドインアビス【後編】放浪する黄昏』も「児童に対する残酷な描写」を指摘されているが、PG12で公開されている。

 本作はどのようなシーンが規定に引っ掛かったのか、筆者は2ヶ所ほど可能性があるように思う。1つは予告編でも用いられているレグが裸で人体実験を受けているシーンが児童に対する性的、あるいは暴力的表現として引っ掛かった可能性だ。ただ、このシーンは映倫の審査対象である予告編でも使われていることから、それ自体が大きな問題にならなかった可能性も否定できない。

 むしろ問題は、ある登場人物に訪れる過酷な描写だろう。信じている相手からの人体実験の結果、人としての形を保てなくなり、文字通り使い捨ての道具にされるという、とても辛く重いシーンだ。強く印象に残る描写となっており、作中でも随一の過酷な描写ではあるものの、映像そのものは過激なものにならないように抑えられている印象があった。映像面のみで語れば、本作よりも過激な描写のあるアニメ作品はいくつも思い当たる。物語などの流れなども加味されるため、複合的に要素が絡んだ結果だろう。

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