アメリカTV界で“アジア”の題材が増加? 『ミナリ』など映画市場にとどまらないテーマ性
映画『ミナリ』が話題を集めている。1980年代に韓国からアメリカへと渡った移民家族を描く本作は全編のほとんどが韓国語のセリフで占められているが、製作を務めたのは次々と話題作をリリースする気鋭A24とブラッド・ピット率いるプランB。純然たる“アメリカ映画”だ。今年のアカデミー賞では作品賞はじめ計6部門にノミネートされている。昨年のオスカーを制した『パラサイト 半地下の家族』やBTSなど、世界を席巻する韓国ポップカルチャーによって培われた土壌がこの人気を後押ししているのかと思ったが、『ミナリ』の成功はそれだけではない。異国の文化に戸惑い、過酷な大地に試され、やがてミナリ(韓国語でセリを意味する)のように根付く一家の姿は移民国家アメリカの原風景だ。
全米では現在、アジア系を標的としたヘイトクライムが多発し、社会問題となっている。かねてからの人種差別はもとより、トランプ元大統領によってコロナウイルスの原因がアジア系にあるかのような言説が流布されたことが大いに影響しているだろう。『ミナリ』は物語になることのない多くの声なきアジア系アメリカ人に光を当てた重要な1本なのだ。
2010年代後半、Black Lives Matterや#Me Tooによってポップカルチャーにマイノリティの声がもたらされ、アメリカ映画やTVシリーズは新たなナラティヴを獲得していくことになる。このムーブメントはアジア系にも波及し、2018年にはオールアジア人キャストのコメディ『クレイジー・リッチ!』が大ヒットを記録。それまで背景にも描かれることのなかったアジア系アメリカ人が主役級の役柄を演じるようになり、アジア系アメリカ人そのものを主題とした作品も目立つようになった。
現実の人種構成を“見える化”する近年の学園ドラマ
「物語を通じて未だ見ぬ文化と出会う」という哲学を掲げるNetflixは、ストリーミングサービスならではのリーチ力でカルチャーを牽引している。昨年はアジア系アメリカ人のZ世代を描いた『ダッシュ&リリー』『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』が続き、TVシリーズ『私の“初めて”日記』が印象に残った。
主人公はインド系アメリカ人の女子高生デービー(マイトレイ・ラマクリシュナン)。彼女は新学期の朝、インドの神々に向かってお祈りする「今年こそイケメンの彼氏をつくってロストバージンしたい!」。アメリカ同時多発テロの年に渡米し、多くのイスラム系と同様いわれなき差別に直面したであろう母親は、そんなデービーに祖国の文化を伝えようと躾けも厳しい。だがアメリカに生まれ育ったデービーにとってインドは異国の地に過ぎず、彼女のアイデンティティはアメリカにある。
インド系アメリカ人のコメディエンヌ、ミンディ・カリングがショーランナーを務める本作はそんなアメリカにおけるインド系の生活実態と、世代間のギャップを背景にヒロインの青春の暴走を描く。近年の学園ドラマは現実の人種構成を“見える化”することで同時代性を獲得したが、本作のキャストもほとんどがアジア系や黒人であり、デービーがバージンを捧げようと猛アタックする水泳部のイケメン、パクストン(ダレン・バーネット)にいたってはなんと名字がヨシダである。移民にルーツを持つ彼らもまた“アメリカ人”であり、そんな彼らがフロントラインを張る本作の空気は清々しい。