アメリカTV界で“アジア”の題材が増加? 『ミナリ』など映画市場にとどまらないテーマ性

アメリカTV界で“アジア”の題材が増加?

人間誰もが持つ加害性を描くホラー作品

 “物語”は観る者の目を開かせ、世界と自分の距離について気付かせてくれる。HBOドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』は1960年代のアメリカ南部を舞台に、人種差別とH・P・ラヴクラフトによる“クトゥルフ神話”をマッシュアップしたホラー作品だが、ストーリーよりも全編にわたって散りばめられた黒人差別の歴史こそが主題であり、観る者の知的好奇心を刺激する。ドラマはエピソード毎に主人公もジャンルも変幻し、スプラッタホラーからオカルト、時にはインディ・ジョーンズ風のアドベンチャーへと横断する。

HBOドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』(c)2020 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 第6話、物語は朝鮮戦争時代の韓国テグへと飛び、現地の女性ジア(ジェイミー・チャン)が主人公となる。看護師として負傷兵の看護にあたる彼女の正体は、夜な夜な男を床に連れ込みセックスで命を奪う妖怪“九尾の狐”だ。ある日、彼女の病院にアメリカ兵が押しかけ、看護婦たちをスパイと疑い、拷問する。理不尽な暴力を振るう兵士たちの中には、本作の主人公アティカス(ジョナサン・メジャース)の姿もあった。人間誰もが持つ加害性を描いていることはもとより、白人から黒人へ、そして黒人からアジア系へと連なるアメリカの構造的差別が描かれていることに、今さらながら気が付いた。

 僕らが生きる世界を知るためにこそ、現在(いま)の作品を観る意味がある。複雑な時代を反映し、アメリカ映画やドラマはハイコンテクスト化が極まった。日本語のテキストが不足しているが、数少ない手引きを頼りにぜひとも世界との接点を見出してほしい。

■長内那由多(Nayuta Osanai)
映画・海外ドラマライター。東京の小劇場シーンで劇作家、演出家、俳優として活動する“インデペンデント演劇人”。主にアメリカ映画とTVシリーズを中心に見続けている。作品のエモーションを共有できるようなレビューを目指しています。Twitter映画・海外ドラマ レビューブログ

■公開情報
『ミナリ』
公開中
監督・脚本:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン、スコット・ヘイズ
配給:ギャガ
上映時間:115分/原題:Minari
(c)2020 A24 DISTRIBUTION, LLC  All Rights Reserved.
公式サイト:gaga.ne.jp/minari

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