韓国映画の“重たい”イメージを変える!? 七転八倒必至の韓国産アクションコメディの魅力

いま面白い韓国アクションコメディ

 『パラサイト 半地下の家族』の米アカデミー賞作品賞受賞や『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヒットなど、日本でも改めて注目度が増している韓国映画。これまで評価されてきた作品を振り返ってみると、チェ・ミンシク主演の『オールド・ボーイ』やウォンビン主演の『アジョシ』など重厚感漂うサスペンス作品が目立つことに気づかされる。

 元をたどれば韓国映画ブームの火付け役となった『シュリ』も、朝鮮半島の緊張感を巧みに物語に取り込んだ作品。そのため、長い年月をかけて“韓国映画=重たい”というイメージを作り上げてきた映画ファンは少なくないはずだ。とはいえ近年日本で公開されているタイトルを見ると、重厚感だけではない韓国映画の豊穣な魅力に驚かされるものばかり。中でも新たなファン層の取り込みに成功しているのが、“アクションコメディ”作品ではないだろうか。

『エクストリーム・ジョブ』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

 たとえば2020年1月に日本で公開された『エクストリーム・ジョブ』。本国でメガヒットを記録、「昼はチキン店 夜は潜入捜査官」というユニークなコピーに惹かれて、筆者ももちろん劇場で鑑賞している。既に予告編の段階でコメディ要素は遺憾なく発揮されていたのだが、これがオープニングから畳みかけるようにやたら面白い。メインキャラクターを務める麻薬捜査班のポンコツぶりが際立ちながらも、物語から逸脱してキャラが独り歩きすることがない。監視捜査のために、解散寸前のチームがフライドチキン店を偽装経営するという奇想天外な設定をより輝かせていたほどだ。

『エクストリーム・ジョブ』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

 また『エクストリーム・ジョブ』はフライドチキン店ならでは(?)の奮闘ぶりを面白おかしく描くだけでなく、各登場人物を掘り下げるバックボーンや個性が作品を牽引していたことも忘れてはならない。コ班長を演じたリュ・スンリョンをはじめチーム紅一点のイ・ハニなど、メンバー1人ひとりに肉づけされた“持ち味”が存分に活かされたクライマックスのアクションシーンは圧巻。フライドチキンを作り上げるために様々な工程やスパイスが重なるように、メンバーそれぞれの個性が1つになる瞬間はまさに爽快のひと言だ。肩肘張らずにテンポよく展開していくストーリーと、息の合った役者陣の演技が見事に融合したことで、『エクストリーム・ジョブ』を無駄のない洗練されたアクションコメディへ昇華させたことは明らかだろう。

『ノンストップ』(c)2020 OAL&Sanai Pictures Co., Ltd. All rights reserved

 今年に入ってから公開された韓国産アクションコメディでは、オム・ジョンファとパク・ソンウンが共演した『ノンストップ』も外せない作品。2人が演じた夫婦はともに“相手に知られていないもう1つの顔”を持っていて、ハリウッド作品であれば『Mr.&Mrs.スミス』、日本でいえば綾瀬はるか主演の『奥様は、取り扱い注意』の設定と重なる部分は多い。だからといって作品にオリジナリティがないということは決してなく、新婚旅行でハワイへ向かう飛行機内という限定空間を活用したストーリーが本作の大きな魅力になっている。特に密室劇ともなればそれだけ物語の横軸を広げることが困難になるものの、多数の乗客・乗員が乗りこむ飛行機内での縦軸を二転三転させることで回避。先の読めない展開が続く中で夫婦がそれぞれの能力を発揮する姿にはやはり爽快感があり、ジョンファがハイジャック犯を相手に見せる近接格闘術の美しさもまた本作に熱いエネルギーを注いでいた。

『シークレット・ジョブ』(c)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & about Film, DCG PLUS. All Rights Reserved.

 他にもアクションコメディでは高層ビル群を舞台にした『EXIT』、コメディ作品では動物園スタッフたちの奮闘を描いた『シークレット・ジョブ』、ファンタジーアクションに軽妙なコメディ要素を取り入れた『神と共に 第一章 罪と罰』『神と共に 第二章 因と縁』のように、従来の韓国映画のイメージとは異なる作品が日本国内でもヒット。いずれもエンターテインメント度が高く、幅広い客層にアピールできる内容であることが共通点といえるだろう。また、下手なコメディ作品にありがちな“その場限り”の使い捨てキャラが見当たらず、どの作品も主人公だけでなくサブキャラクターに至るまでがしっかり物語の中で呼吸をしていることも、作品の強度を上げる重要な要素となった。コメディ作品はドラマ重視の群像劇とは方向性が異なっていたとしても、 “人間を描けている”からこそ韓国産コメディの世界は実に奥深い。

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