コロナ禍の今、『タイガーテール』などアジア系米国人クリエイター作品を観る理由

コロナ禍の今、『タイガーテール』を観る理由

 4月10日にNetflixにて全世界配信が開始された『タイガーテール -ある家族の記憶-』は、『パークス・アンド・レクリエーション』(NBC)や『マスター・オブ・ゼロ』(Netflix)で頭角を現した脚本家アラン・ヤンの初長編映画監督作。台湾から移民した父親(ルル・ワン監督の『フェアウェル』でも好演していたツィ・マー)とアメリカ生まれの娘、そして彼の人生を彩った3人の女性たちとの物語だ。アラン・ヤン自身が台湾からの移民一家に生まれアメリカで教育を受けた2世で、父親の半生を下敷きに物語を作り上げた。というより、ベースは言わずもがな『マスター・オブ・ゼロ』シーズン1エピソード2「ペアレンツ」にある。「ペアレンツ」のあらすじはこうだ。

『マスター・オブ・ゼロ』

 それぞれ移民家庭に育ったデフ(アジズ・アンサリ)とブライアンは、アメリカ人に比べて感情表現が乏しい両親に不満を持ち、もっと彼らの過去の話を聞くべきだと食事会を開く。そこで、移民1世の親世代がどんな思いを抱え今の生活を手に入れたかを知る。脚本はアジズ・アンサリとアラン・ヤンが執筆し、アンサリが出演と監督をしている。『マスター・オブ・ゼロ』及びアンサリのスタンダップコメディには移民2世の視点が色濃く現れていて、彼らの自我を形成する上で大きな影響を与えていることがわかる。アジア系移民の(特に)父親は、“脆さを見せることは、弱みを見せること”を信念に、若かりし頃の野心や後悔について語ることを控えてきた。そのことが子ども世代にアイデンティティの空虚さを与えた。アンサリとヤンは、そこに共振したのだ。

『マスター・オブ・ゼロ』撮影時の様子(中央がアラン・ヤン)

 アラン・ヤンは『タイガーテール』を作るにあたり影響を受けた作品に、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(2000年)とエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000年)を挙げている。この2本は、1983年生まれのヤン監督が17歳のときに公開された。生まれ故郷のカリフォルニアを離れ、アジア系移民の両親の「数学と化学を学ぶことは有色人種のセーフティ・ネットになる」という教えを守り東海岸のハーバード大学で生物学を学び出した頃だ。この2作品は彼にとって、家族というセーフティ・ゾーンを離れ初めて意識した民族的出自で、やがて記憶や感情を再構築する映像メディアへ関心につながっていったのかもしれない。

『タイガーテール』

 『タイガーテール』の配信を前にアラン・ヤンは、「(映画の予告編の)2分間だけでも未曾有の状況からの逃避を必要としている人々、特にアジア系アメリカ人のみなさんへ。この映画は僕の家族と全ての移民へのラブレターです」とTwitterに書いている。


 『タイガーテール』はNetflixによる劇場公開も予定されていたが、アメリカの映画館は新型コロナウイルスの感染拡大により閉鎖されているため配信のみとなった。だが、不慮の事態とはいえ、配信というスタイルも含めて今こそ最善のタイミングだったような気もする。アメリカの現大統領は新型コロナウイルスを“チャイニーズ・ウイルス”と呼ぶことを憚らず、ウイルス感染と比例するように世界中でアジア系住民への誹謗中傷が増加している。ヤン監督はニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、「僕がとてつもなくナイーヴなのかもしれないけれど、2020年の今、人種差別はある程度過去のものになったと思っていた。でも、明らかにまだここに存在するんだ」と語っている。

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