『べらぼう』市原隼人から溢れ出る人間味 鳥山検校としての“揺らぎ”は絶品の名演に

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)において、鳥山検校を演じる市原隼人は異彩を放っている。第13回「お江戸揺るがす座頭金」で瀬以(瀬川/小芝風花)との応酬で“揺らいだ”鳥山の心を体現する演技力はまさしく絶品だった。
鳥山は、役者にとって演じるのが相当に難しい人物であるはずだ。まず盲目であり、声や音を頼りに生きているため“目”による表現はほぼ封じられている。人物像としては、富豪としての品格を備えつつ、人の心に寄り添うこともできる人格者であるが、一方で暗闇の中で生きてきた孤独も抱えている。

そんな複雑な鳥山というキャラクターを、短いセリフの声色とわずかな所作の工夫で積み上げてきた市原。第13回でそれを一気に崩すことで、鳥山の“人間味”が一気に溢れ出たように感じられたのである。
鳥山は瀬以を喜ばすために、彼女が好きな本を大量に贈る。しかし、それをきっかけに、いくら金を積んでも瀬以の心までは自分のものにできないことを確信してしまう。「そなたは吉原に戻りたいのか?」「なぜ吉原の者たちとおるように声が弾まぬ」「なぜじゃ? わしはそなたが望むことはすべて叶えておるではないか」と畳み掛けるように瀬以に迫る鳥山。身請けをする前も後も、ずっと纏っていた“静謐さ”が初めて失われた瞬間だった。
続けて「所詮わしは客ということか?」「どこまで行こうと女郎と客。そういうことだな」「もうよい、嘘ばかりの女郎声など聞きとうない!」と声を荒げ、鳥山は床に倒れる。このとき、うめき声とともに驚きの表情を浮かべ、書棚に体を預けて頼りなげに身を起こす一連の動作は弱々しく、これまで全く見せたことがない姿を晒してしまう。
きっと、品格を身につけることで心の奥底に隠して飼い慣らしてきた“孤独”が、瀬以への恋心によって顔を出し、そして叶わないことを自覚することで、強く傷ついてしまったのであろう。それが憎悪へと変わっていく人間の、男の“弱さ”が描かれているシーンだが、そうした心の動きを、市原は盲目という特徴を活かし最低限のセリフと動きで表現し切っている。




















