ハリウッド映画やドラマシリーズと“カーニバル”の関係性 『ストレンジャー・シングス』などから探る

ハリウッド映画やドラマとカーニバルの関係

 ハリウッドで作られた映画やドラマシリーズを観ていて、移動遊園地のシーンがしばしば登場するのに気づかれたことはあるだろうか。小型の観覧車などの乗り物、景品があたる射的、鏡の迷宮に迷路、フードの屋台などが並び、夜になると色とりどりのライトが灯るあれである。こういった移動遊園地は主に「カーニバル」と呼ばれ、アメリカで広く親しまれている。この記事ではそんなカーニバルと、ハリウッドの映画やドラマとの関わりについて書きたいと思う。

 カーニバルの起源は19世紀後半まで遡ると言われているが、現在ではその多くが夏のシーズンに1週間などの期間限定で開催され、街から街へと移動するのが一般的である。ちょうど日本人にとっての夏祭りのようなイメージだが、特に大都市から離れた小さな町の住人たちにとっては、年に一度の楽しみの一つになっている。

『Love, サイモン 17歳の告白』(c)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 こういったカーニバルは、基本的には子供や若者のためのイベントであることから、映画やドラマでは、特にティーンエイジャーが主人公の映画の中で、非日常感の演出として用いられることが多い。例えば、自分がゲイであることの秘密を抱えた男子高校生サイモンの日々を描いた名作青春ラブコメ映画『Love, サイモン 17歳の告白』(日本では配信のみ)では、クライマックスの重要な要素にカーニバルの観覧車が用いられているし、HBOのシリーズ『ユーフォリア/EUPHORIA』では、第4話の大半を使って、美しくライトアップされたカーニバルを広く使い、もつれる恋愛感情、ドラッグの問題、主人公の妹の捜索など、多数の登場人物たちが入れ替わり立ち替わりストーリーを展開していく。

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(c)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 一方、ホラーやサスペンスにおいては、そんな若者の領域に大人が迷い込んだことによる違和感や非力感が表現されることも多い。例えば2019年公開の『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』や、『バットマン』フランチャイズのスピンオフとも言うべき『GOTHAM/ゴッサム』シーズン3などでは、カーニバルの中で悪の存在を前にしながらも、何もすることのできない人々の姿が描かれた。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン3では、暗殺者と対峙する街の保安官の緊張感のあるシーンが登場する。また、『シャザム!』や『ウォッチメン』などに見るように、スーパーヒーローものでは、しばしばヴィランやモンスターからの襲撃対象や戦いの舞台として選ばれる。

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン3

 このように、様々な作品で重宝されるカーニバルだが、その大きな理由の一つは、その場所がもつ多様な顔である。カーニバルには数多くのアトラクションやゲーム、屋台などが揃い、これらはストーリーに様々なバリエーションを与えてくれる。ジェットコースターやフリーフォール、お化け屋敷などはホラー映画などに格好の材料になるし、夕暮れとともに照らされる綺麗な照明や観覧車、そして主にチャリティ目的で設置されるキッシング・ブースなどは、ロマンスの展開にはうってつけだ。

 また、子供たちが自由に走りまわる迷路の中を、いい大人が転げまわり、ひどい目に遭って出てくるのは、コメディ映画でよく見る画ではないだろうか。これらを様々に組み合わせることで、『ユーフォリア』や『ストレンジャー・シングス』のように、複数のストーリーラインを、並行して効果的に回すことが可能になる。一つのロケーションとして、これほどコスパの良い場所もそうあるものではない。

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