『PSYCHO-PASS サイコパス 3』にみる押井守へのリスペクト 草薙素子と慎導灼は何が違う?
全ての人が生きる指針を見つけ、潜在的に犯罪に手を染める者を、システムで判断することによって治安維持が果たされる社会。そんな中で正義のあり方や、人間の生き方を説いた『PSYCHO-PASS』シリーズの新作が公開された。近未来SFの世界を舞台としたポリティカルフィクションということで、押井守監督の“ゴースト”との比較を余儀なくされているシリーズでもある。今回は押井守との向き合い方という視点から『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』を考えていきたい。
『PSYCHO-PASS』は2012年に第1期が放送され、劇場作品やTVシリーズも3期まで制作されている、フジテレビのノイタミナ枠を代表する作品だ。東京アニメアワードフェスティバルが開催した歴代ノイタミナ作品のファン投票では、2010年度から2014年度に放送された作品の中でも、第1位を獲得するほどの人気を誇っている。第1期、及び『劇場版 PSYCHO-PASS』では『踊る大捜査線』などの本広克行が総監督して関わっており、SF描写とともに本格的な刑事ドラマが高く評価されている。
『PSYCHO-PASS 3』のTVシリーズは、ビフロストと呼ばれる謎の組織の暗躍を追う公安局刑事課1係の活躍がメインの物語となっている。SF作品ではあるものの、移民問題をテーマの中心におき、現代の日本でも関心の高い問題を描いている。それらの描写からはヘイトスピーチをはじめとして入管施設の問題、不法在留外国人の問題などを連想させ、フィクションのエンターテインメント作品でありながらも、社会派作品としての側面を強調した。
その中で印象に残るのは、灼とイグナトフのバディだろう。ロシア系移民の二世であり、帰化をしているため国籍上は日本人でありながらも、差別的な対応をされてしまうイグナトフと、日本人である灼の関係性には、ルーツがどこであろうが個人の関係に影響を与えることはないというメッセージを感じた。また、小宮カリナ都知事が所属する党の方針により、最も信頼する秘書のアン・オワニーを解雇せざるをえなくなったものの、立場や大人の事情を超えた友情を描いて見せたことで、移民問題の融和的解決という希望を描いた作品としても評価できる。
Prodaction.I.Gは、Netflixとの業務提携を結ぶなど、積極的に海外展開を狙うアニメスタジオの1つだが、この差別や移民問題などの社会的な問題を取り入れる視点は、海外展開を狙う上で欠かせないものだろう。『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』は劇場公開日の12時からAmazonプライムにて全世界に配信を開始するという、異例の対応を行っている。それだけ世界市場に目を向けている作品であるからこそ、日本国内の差別問題を取り入れ、その上で希望を描くことによって、単なるエンタメ作品の枠組みを超えて社会的な視線に考えさせられる作品となっている。
本広克行は『PSYCHO-PASS』の企画を立ち上げた当初から、現代版『機動警察パトレイバー』を作ろうとしていたことを、各種インタビューで明かしている。そこに脚本として参加した虚淵玄などと共に構想を練った結果、『ブレードランナー』をコンセプトとした、基本的な世界観が出来上がっている。
Prodaction.I.Gが制作したSF作品といえば、多くの方が連想するのは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『イノセンス』などの押井守監督作品ではないだろうか。押井自身もリドリー・スコットの熱烈なファンであり『ブレードランナー』などの影響を、多く受けていることを公言している。そして『機動警察パトレイバー the Movie』なども監督していることを考えると、本作が結果的に押井守監督作品の延長線上にあることは疑いようがない。