『ガルパン』『サイコパス』『スパイダーバース』も 音響監督・岩浪美和に聞く、映画の音の作り方
映画における音の価値は日に日に高まっているように感じる。IMAXやドルビーアトモスといった特別上映の普及や、各地で開催される爆音上映といった企画上映会により、映画館の音響システムで作品を楽しむ習慣は広く根付いている。
今回、リアルサウンド映画部では、そんな映画の音を追求し、アニメーションから洋画の吹替まで幅広く担当する音響監督・岩浪美和にインタビューを行った。2015年に彼が手がけた『ガールズ&パンツァー 劇場版』は、1年以上のロングランヒットを叩き出し、深夜アニメ発の劇場作品としては異例の興行収入25億円を記録。今年は既に『サイコパス Sinners of the System』3部作、『劇場版 幼女戦記』、『スパイダーマン:スパイダーバース』と3タイトルに関わっている岩浪音響監督に、映画の音作りについて語ってもらった。
「映画館でしかできない体験を」
ーーまずは音響監督という仕事について教えてください。
岩浪美和(以下岩浪):映像には、音の要素が3つあります。アニメーションの場合ですと、声優が演じる台詞、音響効果さんが担当する様々な効果音、そして音楽です。アニメーション映画は、分業がものすごく進んでいて、○○監督という役職が非常に多いんです。撮影監督や美術監督、作画監督など様々な方がいらっしゃるのですが、作品の総合的な演出を司る監督と一緒に、音に関する演出をサポートするのが音響監督の仕事です。
ーー岩浪さんは、最近では『サイコパス Sinners of the System』3部作、『劇場版 幼女戦記』、そして『スパイダーマン:スパイダーバース』の吹替版と多くの作品を担当しています。映画とテレビでは音の作り方に違いがあるのでしょうか?
岩浪:テレビは通常2chのステレオで、左右2つのチャンネルから音が出るんですが、映画の場合、最低でも5.1chや7.1ch、ドルビーアトモスなど様々なフォーマットがあります。その際に、やはり映画館でしかできない体験というのを、特に意識して作っています。昨今アニメの世界において、劇場公開という手段がクローズアップされています。従来の深夜アニメですと、製作委員会が製作費を出し、色んな形で商品を売ることで回収するというビジネススタイルをとっていました。主にBlu-rayやDVDといったパッケージビジネスですが、ご存知のようにそのウェイトはどんどん低くなっています。そうなると、「続編は映画で」といったケースが増えてきます。劇場版だと、初めからお客さまが入場料を支払って作品を鑑賞し、そこから二次使用、あるいは関連商品という形で回収の幅が広がるので、現在映画館での上映が非常に重要になってきているのです。
ただ、それにしても映画を見に行くとなると、大人1800円という金額は決して安くはありません。配信やテレビを待つのではなく、いかに劇場に足を運んでいただくか。そのために劇場でしかできない体験を提供する。それを音のセクションで追求するのが、今僕が意識していることです。実際に、ご覧になった皆さんがSNSなどで「音がすごいんだよ」とか「これは映画館で観なきゃダメな作品だよ」という風に宣伝してくださっています。それは我々音響スタッフが映画館向けの音に注力してご提供させていただいているからだと思っています。