『PSYCHO-PASS サイコパス 3』にみる押井守へのリスペクト 草薙素子と慎導灼は何が違う?

 今回劇場にて公開された『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』には、明らかな押井守作品への模倣や言及が感じられた。オープニング後のイグナトフが家で妻と食事をするシーンなどの質感に『イノセンス』などの押井作品を連想するとともに、作中で登場するダンゴムシと呼ばれるドローンの戦闘シーンや、コミカルなAIであるコミッサの言動からは『攻殻機動隊』シリーズのタチコマを連想する。

 人の心理状態などを読み取り、犯罪の可能性がある人物をすぐさま判断できる、作品世界では絶対的な存在であるシビュラシステムが、AIであるマカリナに被選挙権を認めたことが大きな転換点となっている。これはシビュラシステムがAIであるマカリナを生命として認めた、とも受け取れるものであり、人の手による新たなる生命の誕生と解釈することもできる。このテーマは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でも描かれており、新たなる生命体としてネットの海に飛び込んでいった草薙素子を連想させるものだ。本作は、『PSYCHO-PASS』シリーズに多大な影響を与えた押井守作品の要素を組み込むことで、世界へのアピールを行うと共に、原点に立ち戻ろうという意思を感じさせる。

 一方で、草薙素子と慎導灼は違う道を選んだ。新たな生命として生まれ変わることを選択した草薙素子と対照的に、シビュラシステムに左右されることなく、引き金を弾くことを選べる人間の意思を信じた慎導灼。この差こそが『攻殻機動隊』シリーズと『PSYCHO-PASS』の、最大の違いとなるのではないだろうか?

 今作において『PSYCHO-PASS』の物語の多くには決着がついたものの、一部の謎が明らかになっていない。謎を明かさずに次回作へと引っ張る手法が多いように感じられ、若干のモヤモヤとした疑問点こそ残るものの、ここでピリオドを打つことなく、今後も続編を制作する気概を感じさせられた。その際に、世界展開を見据えた『PSYCHO-PASS』シリーズがどのような変化を遂げるのか注目したい。

 最後になるが、『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』は、TVシリーズの完結編としての側面もありながらも、押井作品に言及することで“映画”であることを強調しているようにも感じられた。新型コロナウイルス感染症の影響で、なかなか劇場で鑑賞するのは難しいかもしれないが、劇場で観てこそ真価を発揮する作品だろう。落ち着いたタイミングで改めて上映の機会を設けていただきたいと切に願う。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』
全国公開中
Amazon Prime Videoにて編集版を独占配信中
声の出演:梶裕貴、中村悠一、櫻井孝宏、大塚明夫、諏訪部順一、名塚佳織、沢城みゆき、佐倉綾音、日高のり子、宮野真守、中博史、日笠陽子、森川智之、堀内賢雄、矢作紗友里、関智一、野島健児、東地宏樹、伊藤静、本田貴子、花澤香菜
監督:塩谷直義
シリーズ構成:冲方丁
脚本:深見真、冲方丁
キャラクター原案:天野明
キャラクターデザイン:恩田尚之
色彩設計:鈴木麻希子
美術監督:草森秀一
3Dディレクター:大矢和也、森本シグマ 
撮影監督:村井沙樹子
撮影視覚効果:荒井栄児
編集:村上義典
音楽:菅野祐悟
音響監督:岩浪美和
オープニング・テーマ:Who-ya Extended「Synthetic Sympathy」(SMEレコーズ)
アニメーション制作:Production I.G
配給:東宝映像事業部
(c)サイコパス製作委員会
公式サイト:psycho-pass.com/

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