こんまりメソッド、なぜ全米で大反響? 日本発の片づけ術が“セラピー”として機能する理由

こんまりメソッド、なぜ全米で大反響?

こんまりメソッドはプロテスタントに通じる?

 「片づけコンサルタント」で知られる近藤麻理恵が2011年に出版し、ベストセラーとなった著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)。「ときめく」をキーワードに、大胆に持ち物を減らす片づけ法は、2014年に翻訳された「The Life-Changing Magic of Tidying Up」として海外でも話題となった。そして2018年、こんまりこと近藤は、映像配信サービスNetflix『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』(原題:Tidying Up with Marie Kondo)のホストとしてみずからの番組を持つにいたった。同番組は米国内でも開始直後から大きな注目を集めており、社会現象と化しているのは周知の通りだ。

 たしかに『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』は、単なる片づけのビフォーアフターを見せるだけではなく、いかにもアメリカ人が好む自己啓発とセラピーの要素がふんだんに取り込まれたプログラムだ。アメリカ人、わけてもプロテスタント(キリスト教の一派)には、みずからを律する規範を持ち、成功へ近づこうとする姿勢がある。たとえば18世紀に活躍したアメリカ建国の父、ベンジャミン・フランクリンが説いた「フランクリンの13徳」は、掲げられた13の項目を守って規律正しく生活することで、成功へ向けて自分自身を変革していく、いわばアメリカにおける自己啓発の元祖だが、そのなかには「身体、衣服、住居の不潔を容認しないこと」(『フランクリン自伝』中公クラシックス p192)との項目がある。勤勉さや決断力の重視、飲酒や浪費を慎むといった項目と同様、「住居の不潔」は成功の障壁であり、フランクリンにとって許容しがたいものだった。ことほどさように、近藤が推進する「こんまりメソッド」は、フランクリンの13徳、ひいてはアメリカにおけるプロテスタンティズムに通じる部分がある。以下のふたつを読みくらべればわかるが、こんまりメソッドとフランクリンの13徳はまったく同じことを述べている。

「三、規律 自分の持ち物はすべて置くべき場所を決めておくこと」(『フランクリン自伝』p192)

「自分が持っているあらゆるモノの定位置を一つ残らず決めること。じつはこれこそが収納とは何かの本質なのです」(『人生がときめく片づけの魔法』p175)

 『人生がときめく片づけの魔法』がどのような経緯で英訳されたのか、その経緯はあきらかではないが、彼女の著書をアメリカで売り出すというアイデアは彗眼であり、この本がアメリカ人に響くはずだという見立ては正しかった。私自身は、Netflixの番組を見た時点では近藤の著書を読んでいなかったため、あるいはアメリカ進出に際して、片づけのメソッドや表現方法を欧米向けに調整したのではないかと考えていた。しかし彼女の著書を読んで理解したのは、近藤の軸はまったくぶれておらず、2011年から同じ主張を続けているということだ。片づけによって人生をときめかせる(変革し、成功へ導く)こと。すなわち現在の〈こんまり現象〉は、近藤個人がほんらい持っていた資質が、アメリカ人の国民性と非常に相性がよかったという点に尽きるのではないだろうか。なお、近藤はミッション系(プロテスタント)の大学である、東京女子大を卒業している(参照: 東京女子大学、建学の精神)。これはあくまで推測になるが、彼女がアメリカで人気を博した原因のひとつに、大学でプロテスタントの教えに親しんでいたであろう経験が生かされているという可能性も考えられるのではないか。

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