こんまりメソッド、なぜ全米で大反響? 日本発の片づけ術が“セラピー”として機能する理由

こんまりメソッド、なぜ全米で大反響?

「おうちにあいさつしていいですか」。こんまりに対するアメリカ人の反応

 Netflix『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』は、近藤と通訳の女性がクライアントの家を訪ね、彼女の指導によって乱雑だった家が片づいていく経過、そのビフォーアフターを見せる番組である。クライアントはさまざまであり、もうすぐ子どもが産まれる夫婦、手狭な家に越してきた家族、引退生活を楽しみたい夫婦、幸福なゲイカップルなど顔ぶれは多彩だ。当初は家のなかを見てまわり、現状をひととおり確認するのだが、近藤が突如として彼女らしさを発揮するのはその直後だ。彼女は家にあいさつを始めるのである。


 「おうちにあいさつしていいですか」とクライアントに宣言した近藤は、部屋のなかで適切なスポットを探し、「このあたりかな」と場所を決めると、正座して瞑想しながら、心の中で家にあいさつし、家とのコミュニケーションを取るのだ。場に緊張が走る瞬間である。〈この日本人女性は、家とあいさつを始めたぞ……〉と、やや困惑するクライアント。とはいえ、近藤はいたって真剣であり、彼らとしても笑ったり驚いたりするわけにはいかない。家とのあいさつは近藤にとって重要な儀式である。結果、まじめなクライアントは、近藤と一緒に家へあいさつをしたり、家との会話を始めることとなる。ごていねいにも、近藤が家にあいさつする時に決まって流れる〈あいさつミュージック〉まで用意されており、ここで近藤は一気にペースを握る。クライアントは、この片づけを何としても成功させなければと使命感を帯びた表情へ変化するのだ。

 近藤の特徴として、家やモノ(洋服や本)を生きた存在としてとらえ、コミュニケーションを取ろうとするスピリチュアルな姿勢がある。家へのあいさつ以外にも、洋服をたたむことで洋服を会話することを推奨し、眠っている本を揺さぶって「本を起こす」などの行動が見られるのだが、どれもクライアントにとっては意外なものだろう。日本からやってきた、優しくて柔和な女性が、家や衣服と会話しながら、いつの間にか片づけの魔法をかけて去っていく。どうやら彼女の目には、家や洋服やあらゆるモノがすべて生きた存在に見えているらしい……。アメリカ人にとって、こうした近藤のイメージは実にユニークで楽しいものではないだろうか。むろん彼女のこうした姿勢は、2011年の著書から変わらない。たとえば近藤は著書で、モノに宿る意思について語っている。「すべてのモノは、あなたの役に立ちたいと思っています。モノは、捨てられて燃やされたとしても『あなたの役に立ちたい』というエネルギーは残ります」(前掲書 p252)。こうしたスピリチュアルな着眼点はどのようにして得られたのか、クライアントや番組視聴者の興味は尽きない。

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