『泣き虫しょったんの奇跡』で4度目のタッグ 松田龍平×豊田利晃監督が語り合う2人の関係性
映画『泣き虫しょったんの奇跡』が9月7日に公開された。瀬川晶司五段による自伝的作品を映画化した本作は、プロ棋士へのタイムリミットである26歳で年齢制限の壁にぶつかり、プロ棋士になるという夢を断たれた、小学生の頃から将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司が、35歳で人生をかけた二度目の挑戦に挑む模様を描いた実話を基にした物語だ。
今回リアルサウンド映画部では、“しょったん”こと瀬川晶司役で主演を務めた松田龍平と、メガホンを取った豊田利晃監督にインタビューを行い、今回一緒にやることになった経緯や、2人の信頼関係などについて語ってもらった。
松田「このタイミングでやれたことは素直に嬉しい」
ーー豊田監督と将棋という組み合わせは、奨励会に所属していたご自身の体験を基に脚本を書き上げた『王手』(1991年/阪本順治監督)以来となりますが、このタイミングでまた将棋の映画を作ろうと思った理由は?
豊田利晃(以下、豊田):僕の将棋映画を観たいという方がいたり、将棋映画をやらないかと声をかけていただいたりすることはこれまでにも結構あったんです。それで、7~8年前にこの作品の原作を読む機会があって、読んでみたらものすごく感動してしまって。「豊田の将棋映画が観たい」という声に対して、僕自身はあまり積極的に動きたくはなかったんですが、この素晴らしい原作と出会って、尻を叩かれた形ですね。
ーー主演の松田龍平さんとは『青い春』(2002年)、『ナイン・ソウルズ』(2003年)、『I’M FLASH!』(2012年)に続いて今回4度目のタッグとなりますね。
豊田:新作を考えるときは、常に「これ、龍平できるかな」「龍平に合うかな」と考えながら脚本を書いているんです。7~8年前に考えていたときはまだ龍平も20代だったので、ハマらないかなと思ったんですが、7~8年後になって龍平が35歳という原作の実年齢と近くなったので、これはもう松田龍平しかいないなと思って文句なしにオファーしました。
松田龍平(以下、松田):僕は豊田さんが将棋の映画をやるというので、胸が躍りながら、是非やりたいなと。僕も結構前に豊田さんに「将棋の映画は撮らないんですか?」と訊いたことがあったんですが、さっき豊田さんが言っていたように、当時は「撮らないよ」と。豊田さんの中で将棋というのは特別なものなんだろうなと、そのときはなんとなく感じていました。今回このタイミングでやれたことは素直に嬉しいですし、いろいろな繋がりがあったんだなという気がします。
ーー豊田監督の作品としては新境地のような印象を受けました。
豊田:そうですね。ただ、作品のことしか知らない人はそう思うかもしれませんが、僕自身のことを知っている人は、そうは感じないんですよね。
松田:僕は台本をもらったときに、この題材を豊田さんがやるとどうなるのかなと思ったり、将棋の部分は豊田さんなりの勝負の仕方を現場に持ってくるんだろうなとなんとなく思っていました。すごく安心しながらも、そういう楽しみな感じはありましたね。
豊田:原作も良くできているし、結構よくできた脚本も作れたと思っていましたから。将棋のことは僕自身知り尽くしていて、そこにキャスティングがうまくハマったので、「お祭りだ」と。どう楽しもうかと思える現場で、そんなに困ることはありませんでした。いつもの作品のような人殺しは経験がありませんが(笑)、将棋は経験しているのでいろいろ分かるんです。
ーー将棋をテーマにした映画はこれまでも制作されてきましたが、本作では対局よりも人間ドラマ的な部分が掘り下げられていたのがとても印象的でした。
豊田:僕はこの作品を“将棋を題材にした人間ドラマ”だと思っています。そもそも将棋ばかりやっている人はあまりいませんし、わざわざ映画館に行って将棋の映画を観ようというお客さんはそんなにいないんですよね。映画はやはり人間ドラマが基本になってくるので、そこは力を入れてやろうと思いました。
ーー広く観られることを意識した部分もあると。
豊田:映画が始まる前は敷居が低くて、観終わるとちょっと階段を上ったような。それはチャップリンの言葉ですが、そういう映画をいつも作りたいと思っていたんです。でも、なかなかそういう機会に恵まれなくて。でも、この映画はそれをやれるチャンスだったんですよね。