北川悦吏子×豊川悦司の信頼感が光る 『半分、青い。』滲み出る漫画家・くらもちふさこへの敬意

『半分、青い。』くらもちふさこへの敬意

「なにがあっても、すべてあの時のときめきからはじまっていることを忘れぬものか」

 このセリフは、『半分、青い。』(NHK総合)第7週「謝りたい!」で、鈴愛(永野芽郁)が秋風羽織(豊川悦司)に思いの丈を、彼の代表作『いつもポケットにショパン』のワンシーンに出てくるセリフをそのまま言い放ったものだ。

 『半分、青い。』には、『いつもポケットにショパン』を始め、漫画家・くらもちふさこの同名タイトルがそのまま登場する。作者名は、くらもちふさこから秋風羽織へと変更され、それが“偏屈なオッサン少女漫画家”、ましてや豊川悦司が演じるという一種のパラレルワールドが観るものに面白味を持たせている。

 第4週「夢見たい!」で鈴愛が律(佐藤健)からくらもちふさこ作品を借り、漫画家を夢見るようになるところから、劇中では何度も彼女の作品が取り上げられる。秋風の事務所「オフィス・ティンカーベル」は、1990年頃のトレンディドラマを参考に作られており、くらもちふさこの大きな絵が3つドドン!と飾られている気合の入れようだ。そんな私も、ドラマの影響で『いつもポケットにショパン』を読みたくなってしまった。渋谷の本屋を何件探しても売り切れ。挙句の果てに、Amazonで2週間ほど待ち、やっとの思いで文庫本3巻セットを手にした。

 冒頭の鈴愛が引用したセリフは、『いつもポケットにショパン』2巻に登場する。主人公・麻子が、季晋からピアノコンクールに参加するかの電話を受けた後のモノローグである。『半分、青い。』と『いつもポケットにショパン』に大きく共通しているのは、鈴愛と律、麻子と季晋と、どちらも主人公が男女の幼なじみということ。第7週で正人(中村倫也)が鈴愛と律の関係性を知り、「少女漫画とかによくある幼なじみってやつ?」と律に返答するが、まさにそれである。

 『いつもポケットにショパン』の特徴は、眩しく弾けるピアノの演奏シーンにある。『半分、青い。』ありきで読んだからだろうか、筆者は、幼少期に鈴愛が律と一緒に作ったゾートロープのシーンを思い出した。レコードプレイヤーを動力に、16人の小人がコトコト踊って回るのぞき絵は、左耳を失聴した鈴愛の中にあるキラキラと輝く左側の世界。秋風羽織の作品に出会い、夢中で読み進めながらの鈴愛のモノローグも、どこか『いつもポケットにショパン』を彷彿とさせ、幼少期に鈴愛と律が川を挟んでやっていた糸電話も、状況は違えど漫画の1巻に糸電話は登場する。

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