永野芽郁と佐藤健の関係性がもどかしい 『半分、青い。』一風変わったヒロイン・鈴愛の独特な世界
北川悦吏子脚本の『半分、青い。』(NHK総合)の世界観の愛おしさは、一方通行のもどかしさにある。その世界はまるで、ナレーションの風吹ジュンが彼らの子供時代をそう評したように「万華鏡のように」煌いている。その煌きはもちろん、1970年代から90年代に差し掛かるという、少しだけ前の懐かしい時代へのノスタルジーでもある。
隣同士で同じ雨に降られていても、左側の耳が聴こえない鈴愛(永野芽郁)の感じ方と、律(佐藤健)の感じ方はバラバラだ。互いの世界を知るためには「どんな感じ?」と尋ねあわなければならない。この感覚は、糸電話にも例えることができる。子供時代に鈴愛が取り組む、亡くなった祖母と話をするための糸電話と、鈴愛の両親が、まだお腹の中にいる鈴愛と話をしようとした糸電話のことだ。「こっち側のコップを廉子さんが手に持ってくれたら話せるのになあ」と祖父が言う。でも視聴者は、ナレーションによって祖母がこの世にいる登場人物たちからの問いかけに返事をしていることを知っている。胎児の鈴愛もそうだ。登場人物たちには聴こえていないが、確かに彼らの一方通行の投げかけは、受け止められている。聴こえていないが確かにそちら側の世界は存在する。それは、鈴愛の耳、彼女の世界と重なるのである。
一方通行なのは、それぞれの想いも同じだ。岐阜編でノスタルジックに流れ続ける「ふるさと」のメロディは、大人にとっては自分たちの居場所であり、子供たちにとってはやがて出て行く場所である「ふるさと」をイメージさせ、そこで彼らを分断する。空の巣症候群になった和子(原田知世)と「上京した子供から頻繁に手紙来るのはNHKの朝ドラの中だけ」と言い放った晴(松雪泰子)の、東京に行った子供たちへの片想いもまた、切ない一方通行だ。また、律が執拗にスルーするブッチャー(矢本悠馬)の一途な律への友情、もしくは俄かに存在するかもしれないそれ以上の感情、上京する鈴愛に最後に打ち明けた菜生(奈緒)の「なんかが邪魔して今まで言えんかったけど」という前置きに込められた密かなプライド。和やかに穏やかに進む田舎の青春物語は、いくつかのはっきりとは明示されない登場人物たちの「心の真ん中」の断片を残したまま、東京へと移動する。
そして最大のすれ違い、最大の片側通行の思いは、鈴愛と律のもどかしい関係性にある。
同じ7月7日に同じ場所で生まれた律と鈴愛は、「運命の2人」だ。それは、初回の数話がそれぞれのナレーションによって進行していること、彼らの友人・菜生が言い、鈴愛の弟・草太(上村海成)がなんとなく察し、さらにはナレーションの祖母(風吹ジュン)が暖かく見守り、丁寧に互いの感情を解説していることからもわかる。それは、第12話でナレーションの律が、「俺があいつより一足先に生まれたのはあいつを守るためだったかなあって」と語っていることからも、彼らの関係は明らかに何者にも変え難い関係であることが、少なくとも当人たち以外には明白なのである。