黒田監督×奥田誠治が語る、名作アニメの黎明期 『劇場版 フランダースの犬』舞台挨拶レポ

『劇場版 フランダースの犬』舞台挨拶レポ

 1997年に公開された『THE DOG OF FLANDERS 劇場版 フランダースの犬』が、20年の時を経て、京都国際映画祭2017で再上映された。同日に行われた舞台挨拶には、劇場版とテレビ版の両方でメガホンを取った黒田昌郎監督と、テレビ版で絵コンテを担当した奥田誠治が登壇。アニメ評論家の藤津亮太が進行を務めた。

藤津亮太、黒田昌郎監督、奥田誠治

 黒田監督は、「20年ぶりに、関西の地でこういう機会をもらえて非常に嬉しい」と、喜びを噛み締める。全52本のテレビ版で、39本分の絵コンテを担当した奥田も、放送当時を「非常に楽しくて、充実した1年だった」と振り返った。

 そもそも、原作小説の『フランダースの犬』は、文庫本にして約70ページほどの短編だ。コンパクトな物語を、1年間放送のアニメ作品として再構成するためには、必然的に大部分がオリジナルストーリーとなる。さらに、悲劇として知られる『フランダースの犬』を、子ども向けアニメとして落とし込まなければならない。

黒田昌郎監督

 そうして最終的に、物語の大枠は原作に倣いつつ、日常を描いた比較的明るい作品に仕上がった。黒田監督は、そうした指針の意図を次のように語る。「ネロは決して、苦しくもつらくもなかった。彼は、おじいさんとパトラッシュと一緒にいるだけで幸せで、貧しい状況に不満を持っていない。その明るさを徹底的に生かしたいと思った」。

 また、テレビ版の放送枠となった「世界名作劇場」では、『フランダースの犬』と同様に、海外の生活を描いた作品が目立つ。監督いわく、当時は海外旅行の人口も少なく、異国の情報に触れにくかったため、“海外の日常を丁寧に描いている”という点に、視聴者の関心が集中していたそうだ。

奥田誠治

 奥田もこれに同意し、「日常性ってすごく重要ですが、同時に、“それが名作路線だ”という誤解を次の世代にもたらしてしまいました。そうやって日常シーンが形骸化していったことが、名作シリーズの衰退につながったのかなと思っています」と考察した。

 さらに、奥田は「テレビ版の放送当時は、日本アニメーションの一番いい時代だったのかな」と語る。大部分がオリジナルストーリーだった『フランダースの犬』と比較すると、最近のアニメは漫画原作が多いため、作画の方向性もある程度決まっており、絵コンテの自由度が下がっている。「だから、『世界名作劇場』が、日本アニメーションの最後の輝きかな、と私は感じているんです」と奥田。黒田監督もこれに頷きながら、「今は、制作現場も少しルーズになっちゃったんじゃないかな」と苦言を呈した。

 名作アニメシリーズの黎明期について、熱い議論が交わされた本イベント。最後に、黒田監督は来場した観客に感謝の意を述べ、奥田も「まだまだ現役でがんばりますのでよろしくお願いいたします」と意気込みを語って、会場を後にした。

(取材・文・写真=まにょ)

黒田昌郎監督、奥田誠治

■公開情報
『HE DOG OF FLANDERS 劇場版フランダースの犬』
監督:黒田昌郎
声の出演:津村まこと、八木光生
製作:日本/1997/104分
(c)THE DOG OF FLANDERS PROD.

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「レポート」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる