『ポケモン』ブランドを再構築? サトシとピカチュウの出会いと旅立ちを描きなおした意味
現在公開中の『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』はアニメ化の20周年記念作品。物語の原点である主人公サトシとピカチュウの出会いと旅立ちを改めて描きなおした内容となっており、ここ10年の劇場版ポケモンの中でも特筆してドラマチックな1作となっている。どうしてこのような作品が生まれたのか。『ポケモン』の置かれた位置を概観することで考えてみたい。
『劇場版ポケモン』はこの10年ほど、新ポケモンの魅力と映画ならではのスペクタクル・シーンを軸に映画を構成してきた。アニメ『ポケモン』のコアな視聴者は(ゲームよりも低く)未就学児から小学校3年生ぐらいまでなので、こうした内容は観客のニーズに十分応えるものだった。2007年の『ディアルガVSパルキアVSダークライ』の興行収入50.2億円を筆頭に、2003年から2011年まで毎年興行収入40億円以上をキープしていた大ヒットシリーズである。
ところが近年『劇場版ポケモン』の興行成績は右肩下がりになっているのだ。2014年の『破壊の繭とディアンシー』は30億円を割り込み29.1億円。昨年の『ボルケニオンと機巧のマギアナ』は21.5億円となっている。原因としては『妖怪ウォッチ』など強力なライバルの存在も考えられる。だが映画興行だけ見るなら『妖怪ウォッチ』と公開時期は被っていないし、興行成績の低落傾向はアニメ『妖怪ウォッチ』開始前から始まっている。むしろこれは、TVアニメと『劇場版ポケモン』が長期継続した結果、生まれた停滞と考えたほうがわかりやすい。
TVアニメ『ポケモン』は長期継続を前提に「いつ見ても変わらないテイスト」を目指して制作されてきた。それは「いつもおなじみポケモンの世界」で安心できるが、“おなじみ”ではない子供にとってのフックは弱くなる。この積み重ねによってTVから劇場版への導線が弱くなり、それが興行成績に現れるようになったのではないか。これを解決するには子供に『ポケモン』の魅力を改めて伝え直す必要がある。それは『ポケモン』ブランドの再構築といってもよい。
昨年秋からスタートしたTVアニメ『ポケモン』の新シリーズ『サン&ムーン』は、この『ポケモン』ブランドの再構築を目指していることが感じられるシリーズだ。『サン&ムーン』では、キャラクターデザインを一新しただけでなく、サトシが旅をせず、アローラ地方のポケモンスクールに通うという、これまでにない設定を導入した。内容面でも、これまで以上に「ポケモンと人間の関係」に注目して各話のストーリーが作られており、「ポケモンのいる世界の魅力」を改めて伝える内容になっている。
では「ポケモンのいる世界の魅力」とは何か。それは端的にいえば「ポケモンは友達」ということだ。子供は優しかったり強かったりおもしろかったりするパートナーが大好きだ。その感情をフックにして、改めて『ポケモン』の魅力を伝えようとしているのが、『サン&ムーン』といえる。
だいぶ遠回りをしたが、今回の『キミにきめた!』がドラマチックな仕上がりなのも、この「ポケモンは友達」というメッセージが前面に出ているからだ。『キミにきめた!』には、ポケモンに冷たいライバルが出てきて、サトシと好対照をなすが、それだけではない。サトシが苛立ってピカチュウに強くあたり、その後、ピカチュウがいなくなった世界(そこではサトシが現実の世界の小学生である)を夢見るシーンなどもある。また回想シーンでは、『サン&ムーン』第21話「ニャビー、旅立ちの時!」に続き、ポケモンの死が描かれ、それもまた「友情」と絡めた内容になっている。
こうしたドラマチックな要素を通じて、20年前からのオールドファンに「ポケモンの魅力」を思い出してもらい、新しいファンには改めてその魅力をアピールするーーというのが『キミにきめた!』という映画だ。『キミにきめた!』の内容的な充実を踏まえ、来年以降の『劇場版ポケモン』がどのような一手で、ブランドの再構築を進めていくのか、そこに注目したい。