『アナ雪』から『美女と野獣』へーーディズニー映画ヒットの“新法則”を専門家が分析

『美女と野獣』ヒットの数字が示唆するもの

 ディズニーの実写映画『美女と野獣』が、26日に興行通信社が発表した6月24~25日の全国映画動員ランキングにて、動員14万4000人、興収2億700万円をあげ2位をキープしている。累計興収118.1億円を突破し、国内邦洋あわせた歴代興収ランキングでは、先週の21位から19位に浮上している。歴代興収ランキングで3位にランクインしているディズニー映画『アナと雪の女王』(2014年)の累計興収約255億円にどこまで迫るのか、注目が集まるところだ。

 リアルサウンド映画部では今回、『美女と野獣』の興行成績の特色について、映画・映像業界に特化した分析サービスを行っているGEM Partners株式会社の代表取締役/CEOの梅津 文氏にインタビュー。同社が運営するメディア「GEM Standard」に掲載された分析記事「映画のヒットと市場の変化:「ディズニーのブランド力」から」をさらに掘り下げ、『美女と野獣』のヒットから伺える“映画市場の変化”を探った。

『アナ雪』は公開後にポテンシャルを発揮した稀有な事例

GEM Partnersにおいて毎週実施しているCATSレポート向けアンケート調査から。過去一年間に映画館で1本以上映画を観たと答えた回答者、サンプルサイズは3000前後。 図の中の作品は、014年以降に公開され最終興行収入40億以上となったディズニー配給作品のうち、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ、ピクサー・アニメーション・スタジオによるもの。

ーーGEM Standardでは『美女と野獣』のヒットの理由を、「ディズニー映画のブランド力」によるところが大きいと指摘しています。ターニングポイントや、継続的にブランド力が高まっていった理由を改めて教えてください。

梅津:「美女と野獣」のヒットの要因は様々ある中で、ディズニーブランド力というベースがあることは間違いなく、また逆に、美女と野獣が快進撃を続ける中「ディズニー映画だと見たくなる」という風に回答する人の割合も高まっています。

 一年に一本以上映画館で映画を観る人の中で、「ディズニー映画だと見たくなる」と答える人の割合の動きを過去にさかのぼってみると、ちょうど14年3月から5月にかけての時期に大きく跳ね上がっていて、それは大きなターニングポイントの一つであったといえます。その後も、15年の春にも大きく伸びていて、それは『シンデレラ』の公開時期です。グラフのとおり、今回の『モアナと伝説の海』と『美女と野獣』の公開をきっかけにこの数値はまたさらに高まっています。

 この数値が継続的に上がっていっている要因としては、もちろん数十億級のヒットがコンスタントにあるということもありますが、ディズニーは映画の公開だけでなく、当然ディズニーランドもあり、またゲームなどのコンテンツ、テレビ放送、そしてキャラクターグッズもあります。そういったタッチポイントでの継続的なブランド接触が非常にうまくいっているということもあると思います。

 また、今回の『美女と野獣』の映画のヒットによって、今後のディズニー映画、ディズニーコンテンツ等に向けた「資産」がまたさらに形成されたといえるでしょう。今週末はウォルト・ディズニー・ピクチャーズの『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』が公開されますが、こちらの浸透度調査の数値も非常に好調で、注目が集まるところです。

ーー『美女と野獣』はオープニングこそ『アナ雪』以上の勢いでしたが、このままだと255億円には届かず、恐らくは想定内のヒットに留まりそうです。『アナ雪』ほどのヒットになっていないのは、どんな理由が考えられますか?

梅津:これは答えるのが難しい質問です。公開時点での数値の意味合いがそれぞれの作品にとってかなり異なるからです。

 『美女と野獣』は「不朽の名作」ともいわれるよく知られた原作があって、ハリーポッターシリーズで知られた女優エマ・ワトソン主演で、公開前から高い期待が形成される作品です。

 一方の『アナ雪』はオリジナルアニメ作品です。公開前から、劇中歌の「ありのままで」を主軸にした宣伝展開で期待は上がっていたものの、作品のポテンシャルの本領が発揮されたのは、むしろ公開後です。実際に多くの人が映画館で作品をみて口コミが爆発し、「知らなかった作品だけど、どうやら話題らしい」と、そこで作品を「目撃したい」という欲求が喚起され、それがまた人々が「ありのーままでー」と口ずさむことを呼び起こし、社会現象になっていったと考えます。

 映画宣伝の露出量や市場の期待度は多くの場合、公開時にピークを迎え、興行成績も公開週末が最も大きくなるのが普通で、その後、週を追うごとに週当たりの興行成績が落ちていく。公開後の口コミや話題度で、どのぐらいなだらかに落ちていくかということで差がつきます。『美女と野獣』はゴールデンウィークに突入した第二週目は前週比で週末の興行収入が増えていますが、大きく見ればその「型」から大きく外れているものではないです。『美女と野獣』は素晴らしいスタートを切り、その後、評価の高い口コミで前週比でも落ちが少ない「王道ロングランヒット」でした。

 一方、『アナ雪』のポテンシャルは、公開後に加速度的に意欲度と話題度が高まっていった稀有な事例です。公開後も、土日二日間の興行収入が前週比で増えた週が5回ありました。

 このように、そもそもベースにしている市場と中身が異なる二つの作品のスタート時の興行収入の比較だけでは、両作品のポテンシャルを図るのは難しいです。

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