『アナ雪』から『美女と野獣』へーーディズニー映画ヒットの“新法則”を専門家が分析
「数珠つなぎ」の発想が新たなヒットを生み出す
ーー近年は邦画アニメの興行も非常に好調です。すでに開拓されてきたアニメ映画市場とディズニー映画は、やはり相性がいいのでしょうか? もし相性が良いのだとすれば、それはどんなところでしょうか?
梅津:「ディズニーアニメ」という言葉があるぐらいですし、「アニメ好調」といわれる中でディズニーアニメ作品のヒットが取り上げられることも多いので、人々の中で「最近のっているジャンル」として同様のイメージを持たれているだろうと思います。
また、『アナ雪』を「洋画」として観た人は、業界の人が思うよりは少ないのではないかと思います。昨今、ハリウッドメジャー配給のアニメ上映においては日本語吹き替え上映回数も増えています。「洋画とは何か」「邦画とは何か」という問いは深淵ですが、垣根を超えたとらえ方、業界構造とは異なるとらえ方がより浸透しているのではないかと思います。
ーー 一方で、「ハリウッド大作をよく観る」と答えた人の割合は横ばいでした。近年、100億円突破した洋画では、『スター・ウォーズ/フォース の覚醒』(2016年)がありますが、国内では近年、邦画に比べて洋画の人気が低くなっているのではとの意見もあります。このような意見をどのように捉えていますか?
梅津:邦画に比べて洋画の人気が下がっているということは、少なくとも2017年の興行成績からは言いづらい状況です。
邦画では、『名探偵コナン』シリーズが今年も前作を超える好調ぶりを示すなど、邦画アニメは好調な作品が多いですが、実写邦画は今年に入って例年と比べて10億を超える作品が少ないというという状況もあります。その一方で、『モアナと伝説の海』『SING/シング』『ラ・ラ・ランド』は40~50億級のヒットになっています。
「洋画」「邦画」というくくりで一般化して議論するのはわかりやすいですし、意味があると思いますが、そのくくりの中でも各作品、各ジャンル、各配給会社の置かれている状況は異なり、もう少しきめ細かく見ていくと、また違った示唆が得られるとおもいます。
ーー『美女と野獣』のヒットから、今後の映画宣伝・配給のあり方について学ぶとすると、どんなポイントが参考にできそうですか?
梅津:『美女と野獣』の単体のヒットということではないですが、先ほどの図を見ると、一連のディズニー作品のヒットの背景に、一つ一つの施策が長期にわたって線でつながるというダイナミズムを感じます。数珠つなぎのヒット作が『モアナ』のようなオリジナル作品も後押しした部分があると思います。
でも、この「数珠つなぎ」という発想はいま、多くの作品にも可能になっていると思います。作品、ブランドと生活者のタッチポイントの多くは、データをもたらし、蓄積され、解析が可能となり、また、その解析結果をもとにもう一度その人にリーチすることが可能になっています。
一つの作品の宣伝・興行がまた次に活かせる。これまでの「続編でもない限り映画の宣伝は次につながらない」という環境ではない。ノウハウだけでなく、具体的にその観客にまたリーチすることが可能となっているという意味で、次に活かす資産となっている。これはとてもエキサイティングな環境だと思います。
ーー最後に2017年の映画市場について、半年間の動きを見ての感想を教えてください。
梅津:『美女と野獣』に限らず、春休み公開作品の大ヒットによって昨年比で非常にいい動きが続いてきました。また書き入れ時の夏がやってきます。個々の作品への事業者の期待度はそれぞれでしょうが、図2のとおり、市場全体で見ると、公開12週前から公開中の作品に対する鑑賞意欲度は昨年より高い値で推移しています。「桜満開の春興行」に続き、「灼熱の夏興行」となるか、注目が集まるところです。
(取材・構成=編集部)
■公開情報
『美女と野獣』
全国公開中
監督:ビル・コンドン
出演:エマ・ワトソン、ダン・スティーヴンス、ルーク・エヴァンス
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/beautyandbeast.html