ア・トライブ・コールド・クエスト/アリ・シャヒードが語る、90'sヒップホップの再来

ATCQ・アリ『ルーク・ケイジ』インタビュー

「ヒップホップはここ最近、エレクトロニックな要素を取り入れたものが主流になっていた。それはヒップホップというジャンルが進化を遂げているという意味で、とてもいいことだと思う。でも、ずっとエレクトロニックな要素のあるヒップホップを聴いてきた若い世代の人たちにとっては、90年代のヒップホップはきっと新鮮なんだろうね。より深くヒップホップを知ろうと思った結果、昔の時代のものを発掘して、そこに価値を見出したんじゃないかな。ちょうど僕らが、過去のブラック・ミュージックの中から素晴らしいフレーズを見つけてサンプリングしたようにね。然るべき時を経て、いい音楽が再評価されるのは、自然の摂理のようなもので、人生と同じようにグルグルと回っていくものなんだ。また、自らこう言ってしまうと身内を贔屓しているように感じられてしまうかもしれないけど、80年代後半から90年代半ばごろまでの“ゴールデンエイジ・ヒップホップ”というのは、ヒップホップというジャンルにおいて最高の時期だったんだ。当時の音楽は、いまの若い世代の人たちが聴いても、やっぱり大きく影響を受けると思うよ」

 同ドラマが90年代のヒップホップをフィーチャーしているのは、サウンド面だけではない。各エピソードのタイトルは、ATCQと肩を並べる影響力を持ったギャング・スターの曲名が使用されている。当時、ギャング・スターのことをどう見ていたのか、質問してみた。

「ギャング・スターのDJプレミア、ピート・ロック、ラージ・プロフェッサーなんかは自分たちにとっても友人だったし、いわゆるあからさまなライバルという感じではなかった。むしろ彼らが作ったトラックを聴いて、自分たちもスタジオに戻って、もっといいものを作らないといけないと競い合う関係性だった。それはお互い感じていたことだと思う。ドクター・ドレーについてもそうで、僕たちは彼の大ファンだったし、彼もア・トライブ・コールド・クエストの『The Low End Theory』からすごく影響を受けたと言ってくれた。アメリカ各地からいろいろな人たちが出てきたけど、決して対立するというわけではなく、いい意味でのライバル心みたいなものがあったんだ。ゲトー・ボーイズなんかも南部出身だったけど、彼らの作る音楽はとてもエモーショナルで、すごく共感するものが多かった。西海岸と東海岸の対立が起こる前で、みんな純粋に音楽が好きで、お互いがやっていることに刺激を受け合いながら、切磋琢磨していた時代だったんだ」

 また、ブルックリンで生まれ育ったアリにとって、ハーレムを舞台とした物語に音楽を提供することは、ひとつのチャレンジだったようだ。

「5つの行政区から成り立っているニューヨークにおいて、マンハッタンはいわゆる金融や経済の中心地だ。普通は自分が育って住み続けている地区から出ることはなかなかないんだけど、僕の場合、母親からいろいろな世界を見るように促された。実際、高校はマンハッタンに通ったんだけど、そこでハーレム出身の人たちと知り合う機会があって、ブルックリンとは全然違うと感じたんだ。“Money Making Manhattan”というように、ハーレム出身の人たちは格好がかなり派手で、洗練された華やかさがあった。ブルックリンはどちらかというと、潜在的に洗練されている感じだったから、その点で大きな違いがあったんだ。文化的にも音楽的にも、ハーレムはとても豊かな場所だ。

 20世紀初頭に南部出身の黒人たちが北部に大勢移住してきて、みんなハーレムに住み着いた。彼らは南部の黒人文化を持ち込み、1930年代〜1940年代なんかにシカゴなどの街に移住した人たちも、最終的にはニューヨークに来て、みんな黒人の音楽を求めてハーレムに集まった。奴隷制度や公民権運動を通して、アメリカをよりよくしていこうという黒人の歴史に根ざした精神をみんな表現していたんだ。そのおかげで、創造性に溢れ、芸術性に富んだ表現が生まれ、黒人文化をさらに豊かにした。ハーレムにはそのようなエネルギーが集まっていたんだ。ブルックリンにもジャズミュージシャンがいたりしたけど、エネルギーはハーレムとはまったく異なっていた。チェオは、そういったハーレムならではの空気感をしっかり捉えようとしていた。たくさんの黒人政治家たちがハーレムを復興させようとした、1920年〜1930年代のハーレム・ルネサンスを作品の中でも描こうとした。一方で音楽は、1930年代〜40年代の雰囲気を持ちつつ、90年代の黄金期に根ざしたものでありながら、しっかりと現代のハーレムにも通じるものを作ろうとしたんだ」

 『Marvel ルーク・ケイジ』は、Marvelファンにはもちろんのこと、多くのヒップホップ・リスナーにとっても興味深い作品といえるだろう。黒人文化の深みとパワーを、そのサウンドからも存分に味わってほしい。ちなみに、NetflixではATCQのドキュメンタリー映画『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ~ア・トライブ・コールド・クエストの旅~』も配信しているので、こちらも合わせてチェックしたいところだ。

(取材・文=松田広宣)

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■配信情報
『ルーク・ケイジ』
Netflixにて2016年9月30日(金)より全世界同時オンラインストリーミング
(c) Netflix. All Rights Reserved.
https://www.netflix.com/title/80002537

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