アニメ化で“キャラデザ論争”起きる背景は? 『彼方から』『天は赤い河のほとり』……名作少女漫画の再現問題を考える

アニメ化で“キャラデザ論争”起きる背景

 このところ少女マンガの金字塔とされる作品が、さまざまな形で映像化されている。たとえば7月よりTVアニメ『天は赤い河のほとり』が連続2クールで放送されているほか、10月4日にはTVアニメ『彼方から』が放送開始予定。さらに2027年秋には、Prime Originalドラマ『ぼくの地球を守って』が配信されることも決まっている。

 令和に蘇る思い出の作品にファンたちが盛り上がる一方、SNS上では“ビジュアルの再現度”をめぐって賛否の声が飛び交っている。本稿ではファンの反応と向き合いつつ、その背景にある課題を考察してみたい。

TVアニメ『彼方から』MAIN PV&主題歌解禁 | 2026.10.4~ON AIR!!

 ここで主に注目したいのは実写化作品となる『ぼくの地球を守って』ではなく、初のアニメ化を果たす『彼方から』だ。

 同作はひかわきょうこが1991年から2002年にかけて「LaLa」(白泉社)で連載していた異世界ファンタジーマンガで、累計発行部数は400万部を突破。2004年にはすぐれたSF作品を称える「星雲賞」にも輝いている。

 ヒロインであるノリコの顔は丸くて大きな瞳と小さな口が印象的だが、この描き方からも感じ取れるように、同作ではある時代までの少女マンガの王道と言える絵柄が採用されていた。

 これに対してアニメ版『彼方から』のキャラクターデザインは、たしかに若干方向性が変わっている印象。9月2日に解禁されたアニメ版のキービジュアルと本PVを見ると、そのキャラクターデザインがあまり“少女マンガ的ではない”ように感じられる。

 目の大きさが控えめになっていることは一目瞭然だが、とくに印象的なのは、瞳やまぶたの描き方だ。原作では、ノリコの瞳やまぶたに緻密な描き込みが施されていたが、アニメ版ではシルエットを活かす形で線の数が少なくなっている。

TVアニメ『彼方から』公式 X(@kanatakara_anm)より

 1枚絵の連続であるマンガとは違って、アニメは“絵を動かす”ことが重要な表現媒体。当然そのキャラクターデザインでは、原作の印象を活かしつつ、線をなるべく減らすことが求められる。今回のアニメ化に関しても、そうした事情から絵柄の調整が行われたという面はあるだろう。

 とくに同作は少女マンガでありながら、アクション性の強い作品だ。剣や魔法の異世界を舞台として、ある種の異能バトルのような戦いが繰り広げられていく。むしろアニメ版はアクションに力を入れるためにこそ、“動かしやすさ”を重視したキャラクターデザインとなっているのかもしれない。

 また、もう1つ考えられるのは、「作品をより広い視聴者に届けるために、あえて一般化されたタッチを採用した」という可能性だ。

 当然ながら、マンガにおける絵柄の流行は時代によって絶えず移り変わるもの。そこに良し悪しは一切存在しない。ただ、同じ「LaLa」掲載作品でも、1996年から始まった津田雅美の『彼氏彼女の事情』はもう少し現代的なタッチとなっており、そのあたりに時代の転換点があったようにも感じられる。

 そうした事情から、今回の『彼方から』アニメ化では原作のタッチを忠実に再現するのではなく、あえて一般化された絵柄に寄せることで、当時のファンだけでなくより広い視聴者層にリーチしようとしているのかもしれない。だとすると、絵柄の違いはむしろ原作と本気で向き合い、「いかにしてこの物語を現代の視聴者に届けるか」を試行錯誤した結果とも捉えられるのではないだろうか。

 SNS上では原作絵がそのまま動いているところを見たかったという人や、少女マンガらしさを残したキャラクターデザインにしてほしかったという人の意見も目立っている。とはいえ実際に放送されたアニメ版の内容が十分に“原作愛”を感じさせるものであれば、今後評価は大きく変わっていくはずだ。

 なお名作少女マンガのアニメ化でいえば、『天は赤い河のほとり』においても同様の議論が起きていた。

TVアニメ「天は赤い河のほとり」本PV|OPテーマ:七海ひろき「暁の空」【7月7日より日本テレビ・7月8日よりBS日テレにて放送開始】

 同作は1995年から2002年にかけて「少女コミック」(小学館)で連載された篠原千絵のマンガが原作。古代オリエントの帝国に召喚された平凡な少女・鈴木夕梨(ユーリ)が、陰謀の渦巻く世界で自身の運命を切り拓いていく本格大河ロマンだ。

 原作の絵柄は『彼方から』よりも凛々しさがあるが、瞳やまぶたの描き込み量などはかなり少女マンガらしい表現手法だった。だがこちらもアニメ版のキャラクターデザインでは、絵柄が一般化されているように見える。実際にSNS上のファンたちは、原作にあった「ゴージャスさ」や「キラキラ」が足りていないことに違和感を表明しているようだ。

 同作の場合も、現代の視聴者に届けるための工夫として絵柄の方向性が変わっているものと思われる。その点はコンセプトの違いとして理解できるだろう。ただ、そうした表現の変更によって、原作にあった絵柄の美麗さや繊細さが失われてしまう面も否定できない。だからこそ名作マンガをアニメ化するにあたっては、どこまで原作のタッチを再現し、どこまで現代の感覚に合わせるのか……という判断が大きな課題となるのではないだろうか。

 たとえば2011年から放送された『ちはやふる』のアニメ版では、原作のタッチがかなり忠実に再現されていたため、原作ファンからも好意的に受け入れられていた印象。ただし同作は原作の時点で現代的な絵柄だったため、そもそも翻案の必要があまりなかったのかもしれない。

 他方で2018年放送の『BANANA FISH』は原作を再現しつつ、現代的にアレンジを加えるという絶妙なバランス感覚でキャラクターデザインが行われており、幅広い層に受け入れられる作品となっていた。

 マンガをアニメ化する際、避けては通れない絵柄の再現性という問題。誰もが満足する絵柄を実現することは難しいものの、物語の魅力には普遍性があるはずだ。『彼方から』のアニメ化に関しても、素晴らしい結果になることを期待したい。

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