『わたしの幸せな結婚』『鬼の花嫁』……“和風シンデレラ”なぜ人気? 平安時代を舞台にした『鬼門に捧ぐ花嫁』の魅力を紐解く

和風シンデレラ『鬼門に捧ぐ花嫁』の魅力

 共に実写映画化・アニメ化を果たした顎木あくみ『わたしの幸せな結婚』(富士見L文庫)やクレハ『鬼の花嫁』(スターツ出版文庫)に代表される、虐げられてきた少女が幸せを掴む和風シンデレラストーリーは引き続き根強い人気を誇っている。

 平安時代中期に書かれた継子いじめ譚『落窪物語』は和製シンデレラストーリーの元祖的存在だが、この度「ことのは文庫」から平安時代を下敷きとした和風シンデレラストーリー、結来月ひろは『鬼門に捧ぐ花嫁 呪いの糸で結ばれる初恋』が刊行された。

平安時代を下敷きにした和風世界の組み立て

 貴族の家に生まれた綾は、母亡き後、継母の輝子とその娘・美和に虐げられて暮らしていた。ぼろを纏い、使用人からも蔑まれる綾だが、彼女には「人の負の感情によって生まれた呪い」が糸として見えるだけでなく、その糸をほどいて呪いをとく能力があった。

 継母の策略によって、対外的には能力を持つのは美和であるとされ、綾は屋敷を訪ねる貴族の呪いをとくことを条件に生家で暮らすことを許されていた。

 そんな中、綾が呪いをといた名門貴族の跡継ぎ・貴仁が美和に求婚してきたことを機に、綾の運命は一変する。もう用済みとばかりに、かつて魑魅魍魎が退けられた巨大な門――鬼門と呼ばれる不吉な場所に「贄の花嫁」として捨てられてしまったのだ。

 検非違使として働く良寿に助けられた綾は、鬼門の側にある良寿の屋敷に身を寄せることに。穏やかな暮らしに安堵する綾には、一つ気掛かりなことがあった。良寿の身体には、綾が今まで見たことがないほど複雑に呪いの糸が纏わり付いていたのだ……。

 和風シンデレラストーリーは数多くあるが、一見同じ物語の型を踏襲しながらも和風世界の組み立てには個性が表れる。本作の舞台となるのは、日出国の都・響都。その名から窺い知れるように平安時代の京都が下敷きになった舞台で、平安ものを読んできた読者なら「なるほど」となる要素が散りばめられていて面白い。

 後に初代帝となった青年とその呼びかけに応じて集った四神たちによって、都の北東にある巨大な門の向こうに魑魅魍魎が退けられたと伝わる数百年前の逸話には、共に戦った千寿丸という名の鬼の存在が隠されている。初代帝となった青年の家系には代々千寿丸の依り代となる者・鬼人が生まれ、魑魅魍魎を祓う力と共に、やがて鬼に身体を乗っ取られて死ぬ運命を授かるのだ。……綾を助けた良寿は、この鬼人の運命と呪いを帯びた人物だ。

 平安時代を彷彿とさせる舞台の平和を保つシステムの歪さと、物語を貫く「為政者の威光を伝える逸話に隠されたほの暗い秘密」が本作の魅力の一つと言えるだろう。

「呪いの糸」が初恋という運命に変化するシンデレラストーリー

 綾と良寿が少しずつ距離を縮めていく様子はお約束のようにじれったいが、互いにつらい目に遭ってきた二人が遠慮しながらも恋を育んでいくさまは微笑ましい。

 二人の恋路を見守るのは、良寿の中に棲まう鬼の千寿丸や良寿の双子の兄・雅良、代々帝の一族に仕えている陰陽師・南天といった二人の良き理解者たちだ。

 鬼の千寿丸とその依り代である鬼人の関係は一見苦しいものに思われるが、良寿は代々の鬼人とは違って千寿丸と良好な関係を結んでいる。時に兄や友人のように綾たちに助言する千寿丸のありようには、この物語の優しさが現れているように思う。綾と良寿の二人が辛い身の上にありながらも捻くれずに生きているからこそ、周囲との関係も優しいのだろう。

 また、次期帝という自由が利かないはずの身の上でありながら藁作りの人形の姿で作中を歩き回る雅良の朗らかさが物語を暗くしすぎていないところも良い。

 しかしながら、綾と良寿の恋は順調には進まない。何しろ綾の継母・輝子とその娘の美和はたびたび綾に干渉してくる上に、次第に美和の婚約者である貴仁にも不穏な思惑が見え隠れする。義家族の悪意が際立つ程、実父の存在が気になってくるところだが……本作はシンデレラストーリーで透明になりやすい実父の存在の活かし方も面白く、なるほどと思わされた。また、ラストには「ざまあ」もしっかり用意されていると添えておく。

 合わせて、綾と良寿の二人と鏡合わせのように描かれるもう一つの関係にも注目だ。物語が進むにつれて、帝の一族の中で受け継がれてきた鬼・千寿丸の事情が繙かれていく。為政者が正しいと定めた歴史に埋もれた千寿丸と、彼が大切に思う存在・翠とのエピソードには、掛け違えられたボタンと過ぎ去った時間の切なさを感じずにはいられない。

 呪われた運命に生まれた鬼の依り代の青年と、呪いの糸をほどく力を持つ少女。共に周囲から蔑まれながら生きてきた二人の運命と恋がどのように結び合わされるのか、ぜひ見届けてほしい。

■書誌情報
『鬼門に捧ぐ花嫁 呪いの糸で結ばれる初恋』

小説:結来月ひろは

イラスト:mokoppe

価格:792円(税込)

発売日:2026年8月24日

出版社:マイクロマガジン社(ことのは文庫)

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる