『あかね噺』なぜヒット作に? 落語シーンを“バトル漫画”として描く革新性

『あかね噺』なぜヒット作に? 落語シーンを“バトル漫画”として描く革新性

 『あかね噺』の連載が「週刊少年ジャンプ」で始まったとき、人気作になるのは難しいのではないかと考えた。理由は題材が、落語の世界だからだ。いや、それまでにも、古谷敏三の『寄席芸人伝』や、雲田はるこの『昭和元禄落語心中』といった、落語の世界を舞台にした、優れた漫画があった。しかし落語は、「週刊少年ジャンプ」のメイン・ターゲットである若者層(現在の読者は若者層だけに収まらないが、やはりメイン・ターゲットはそこであろう)に馴染みのある題材とは思えなかったのだ。

 しかしそれは杞憂であった。あっという間にヒット作になり、二〇二六年五月現在も連載を続行中。四月からテレビアニメも放送され、こちらも好評価を得ている。なぜ『あかね噺』は、これほどの人気作になったのか。もちろん、面白いからである。その面白さの内実を、少し分析してみたい。

 主人公の桜咲朱音は、幼い頃から落語家の父親・阿良川志ん太を慕い、応援していた。しかし父親は真打昇格試験で、一門のトップである阿良川一生により破門され、落語家を辞めてしまう。このことに納得のいかない朱音は、父親の師匠であった阿良川志ぐまに小学生の頃から密かに師事し、落語家を目指す。阿良川一門の真打になり、父親の落語が凄かったことを、みんなと一生に証明するためだ。高校を卒業した朱音は、晴れて阿良川一門に入門。阿良川あかねとして落語修行を開始する。兄弟子たちやライバル、そして多数の落語家に揉まれながら、大きく成長していくのだった。

 本作の展開はスピーディである。父親が破門されるエピソードを第一話で描き、第二話であかねの目標が提示される。ストーリーの方向性が早い段階で示されているのだ。一生の真意がどこにあったのかという謎も、しばらくの間、読者の興味を強く引っ張る。さらに話が進むと、阿良川一門の歴史に深く関係する〝志ぐまの芸〟の謎が、しだいにクローズアツプされる。物語の牽引力が、とにかく強いのだ。

 さらに、あかねの成長が、落語で表現される。幼い頃からずば抜けた落語の才能があったが、それゆえに欠けた部分もあるあかね。見習い前座から始まり、前座、二ツ目と落語家の階級を登っていく過程で、彼女はさまざまな障害や困難に遭遇する。感心するのは、その障害や困難を乗り越えるスパンが、かなり短いことだ。悩んだり落ち込んだりするが、ポジティブな姿勢と気づきですぐに復活。人気の変動が激しい週刊誌連在ということもあるだろうが、すぐに主人公を気持ちよく躍動させてくれるのだ。だから読んでいて楽しいのである。

 一方、あかねの周囲の人々も見逃せない。特に注目したいのが、ライバル・キャラである、練磨家からしと高良木ひかるだ。まだあかねが阿良川一門に正式に乳もする前に出た、学生落語選手権「可楽杯」で出会った三人。からしは幼い頃から優秀で、何でも軽々とこなす。ひかりは人気声優である。そんな二人があかねに負けたことで、本格的に落語家の道を目指す(ひかりは声優と兼業)。それぞれ三明亭からしと阿良川ひかりとして、あかねの前に立ち塞がるのだ。

 といっても同じ世界で生きる者であり、仲は悪くない。ライバルとして切磋琢磨しているのだ。また、師匠や兄弟子など、さまざまな人が若き落語家を導いていく。「週刊少年ジャンプ」の重要な要素である、「友情・努力・勝利」を、この作品はきちんと踏まえているのだ。

 しかも本作は、落語の場面をバトル漫画的に描いている。落語の演じ方を〝作品派〟〝己れ派〟など、あたかも武術の流派のようだ。また、「四人会」の出場枠を巡る選考会でひかるが、声優であることの利点を活かし、落語の登場人物の声色を変えて語ることを、〝八人座頭〟と名付ける。まるで必殺技の名称だ。

 だがこれは、明確に狙ってのこと。本作の原作を担当している末永裕樹は、「朝日新聞」の記事で、「落語漫画といえば、『師弟』。疑似家族的な関係を描く大人のドラマのイメージが強かった。でも『あかね噺』はあくまで演技論を中心としたバトル漫画です。なんと言っても少年ジャンプの連載ですから」と語っている。ジャンプ・メソッドとでもいうものを、きちんと押さえながら、今の落語の世界を活写し、その中でヒロインたちを生き生きと動かす。だから本作は、「週刊少年ジャンプ」の読者に受け入れられ、人気作になったのだろう。

 おっと、絵の魅力に触れるのを忘れていた。作画担当の馬上鷹将も、素晴らしい仕事をしている。そもそも落語を絵で表現するのは難しいのだが、コマ割りなど、さまざまな工夫で見事にクリア。一例として、第二巻五十五ページのコマ割りを見てほしい。あかりの兄弟子の落語の場面が、巧みに表現されているのだ。

 しかも話が進むにつれ、表現力がさらに高まる。第二十巻のあかね落語の場面は、彼女が至った境地が、絵で分かるようになっている。あかねの進化に合わせるように絵も進化する。ここも本作の読みどころになっているのである。

■関連情報
『あかね噺』(原作:末永裕樹/作画:馬上鷹将)の落語イベント「あかね噺落語会~当世大看板百芸繚乱~」東京・有楽町よみうりホールにて5月7日(木)と8日(金)に開催。
詳細はこちら。

ⓒ末永裕樹・馬上鷹将/集英社

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