『なぜ超一流選手がPKを外すのか』『ブラックアーセナル』が大賞受賞「第13回サッカー本大賞2026」贈賞式レポ

「第13回サッカー本大賞2026」贈賞式レポ

 「第13回サッカー本大賞2026」贈賞式が3月24日、都内で開催され、大賞に2作品が選出される結果となった。

 「良質なサッカー書籍が日本サッカーの文化を豊かにする」をスローガンに掲げる同賞は、今年で13回目を迎える。選考委員は金井真紀、佐山一郎、陣野俊史、幅允孝の4名が担当。今年度の優秀作品には、選考対象の56冊から7作品が選出された。

 ノミネート作品は、伊東武彦『早稲田サッカー 百年の挑戦』(徳間書店)、イアン・グラハム著・木崎伸也監修・樋口武志訳『サッカーはデータが10割 最強アナリストが明かすプレミアリーグで優勝する方法』(飛鳥新社)、ゲイル・ヨルデット著・福井久美子訳『なぜ超一流選手がPKを外すのか サッカーに学ぶ究極のプレッシャー心理学』(文藝春秋)、ベン・メイブリー『プレミアリーグ全史[1][2][3]』(平凡社)、広島サッカースタジアム単行本制作委員会編著『PEACE WING 広島サッカースタジアム 構想・設計・建設の記録』(建築画報社)、クライヴ・チジオケ・ヌウォンカ&マシュー・ハーレ編・山中拓磨訳『ブラックアーセナル』(カンゼン)、立石敬之『史上最強のサッカー日本代表をつくるために僕はベルギーへ渡った』(日経BP)の7作品。

「読者賞」と「特別賞」をダブル受賞した『早稲田サッカー 百年の挑戦』著者の伊東武彦氏

 このうち、『早稲田サッカー 百年の挑戦』は、サッカー情報媒体「フットボールチャンネル」の読者投票による「読者賞」と「特別賞」をダブル受賞。また、『サッカーはデータが10割』も「特別賞」に選ばれた。

 大賞として最初に発表されたのは、『なぜ超一流選手がPKを外すのか』。スポーツ心理学者のゲイル・ヨルデットが、1970年代以降の膨大なPK事例を分析し、「プレッシャーへの心理学的アプローチ」を提案する一冊だ。

『なぜ超一流選手がPKを外すのか』翻訳者の福井久美子氏

 翻訳を務めた福井久美子は「王道から外れたスポーツ心理学者の本だったので、選ばれるとは思っていなかった」と驚きを語った。授賞式では著者のビデオレターも披露された。「長年サッカー界は、練習も心理的サポートも与えずに選手をPK戦へ送り出してきた。その現状を変えたい」と語るヨルデット氏は、2022年のカタールW杯でのPK戦敗退後における森保監督の姿勢を称えつつ、今夏のワールドカップへのエールも添えた。

著者・ヨルデット氏のビデオレター

 選考委員の陣野俊史は講評で、リバプールがPKを「チーム戦」として遂行する場面を引用し、「PK獲得からキックまでの数分間に、キッカー以外の複数の選手が役割を担っていた」という描写を紹介。「PKに関する研究がここまで進んでいるとは」と感嘆した。

 もうひとつの大賞は『ブラックアーセナル』。1960年代から現在に至る黒人文化とアーセナルFCの関係を、元選手や社会学者、スタジアムのメンテナンス職員、近所のホットドッグ売りまで、多様な当事者の声で綴る異色作だ。

『ブラックアーセナル』翻訳者の山中拓磨氏

 金井真紀は「アーセナルの歴史本だと思ったら大間違い」と評し、かつて差別の言葉が飛び交っていたスタジアムが、黒人や移民、マイノリティにとっての「自分の居場所」へと変わっていく歴史を記した「広くて深い本」と讃えた。翻訳者・山中拓磨の仕事については、幅允孝が「各執筆者それぞれの声色がしっかり伝わってくる翻訳」と評価した。

 また、同じく注目を集めたイアン・グラハム『サッカーはデータが10割』をめぐっては、タイトルのあり方が議論の的となったという。幅允孝は「原題の『How to Win the Premier League』は教科書的なタイトル。日本語版の編集チームによって『データが10割』と言い切った判断がよかった。そこにはデータ主義の強固さと決意が垣間見える」と評価した。

 一方で佐山一郎は、「『球を置きに行くと打たれる』という言葉があるように、あまり狙いすぎてもどうなのかと感じました」と、キャッチーなタイトルで読者を引く姿勢に苦言を呈した。タイトルの訴求力と品格をめぐる一幕だが、妥協せず選び抜いた選考委員の本気を垣間見る場面でもあった。

 そして「サッカー本の部数は最盛期から落ちていると思う」と、最後の総評で陣野俊史が率直に語る。この賞が始まった当初は毎年200冊を超えていたが、今年は56冊。少数精鋭でクオリティの低下はないものの、サッカーブームは明らかに下火だという見方が、選考委員の間でもあるようだ。

 しかし陣野は「今年はワールドカップイヤー」と力強く続ける。「できれば今年の2倍くらいの本が出てほしい。読むのは大変なんですけど(笑)。サッカーの未来を考えたら、W杯イヤーに点数が出ないと盛り上がらない」と、出版関係者に向けてエールを送った。

 サッカー本の減少は、出版を取り巻く環境の変化とも無関係ではない。生成AIの台頭によって文章の価値が揺らぐなか、「本」が持つ意味が改めて問われている。そんな過渡期にあって、来年はどのような作品が並ぶのか。今後の動向が注目される。

■関連情報
サッカー本大賞公式ホームページ

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