松山ケンイチ「発達障害の裁判官」どう演じる? 『テミスの不確かな法廷』ドラマ化で注目される独自のアプローチ

来年1月ドラマの中でとりわけ異彩を放ちそうなのが、松山ケンイチ主演の『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)だ。原作は『転がる検事に苔むさず』で第3回警察小説大賞を受賞した直島翔による同名小説。現役の新聞記者でもある直島氏の司法や捜査の現場に対する知見を背景に、本作では東京から地方都市にあるY地方裁判へ赴任してきた裁判官・安堂清春が、さまざまな事件に関わっていく姿が描かれる。
特筆すべきは、主人公がASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の診断を抱える「発達障害の裁判官」であることだ。日常生活では、周囲から「不思議なキャラクター」「変人」と受け取られることが多いが、その一方でASDに特有とされる細部への注意力や独自の視点によって、事件の中に潜む見落とされがちな事実に気づいていく。
任官7年目の安堂は、突如として襲ってくる落ち着かなさや身体的な違和感と人知れず向き合い、神経をすり減らす日々を送っている。自分に「心」はあるのかと考え込んだり、本題とは直接関係のない事柄に意識を引き寄せられてしまったりすることも少なくない。
原作の安堂は、自身の特性を隠しながら「普通」を装うことに強いストレスを感じているのだが、ドラマ化にあたり注目したいのは、こうした繊細な内面描写が、映像作品としてどのように表現されるのかという点だ。松山はNHK朝ドラ『虎に翼』でも裁判官役を演じた経験を持つが、今回は発達障害の特性を持つ人物という異なるアプローチが求められる。表情や間、声のトーンといった演技の細部によって、安堂という人物像がどこまで立体的に表現されるのかが最大の見所となるだろう。
『虎に翼』では「武士の精神」を意識したという松山だが、内面的な葛藤を抱える発達障害者を演じることは、役者としての力量が試されるかなりの難役となるはず。松山は安堂役について「コミュニケーションのテンプレートに対応するのが困難」とコメントしているが、演技においても「普通を装う」ことの違和感や、情報の捉え方の違いをどのように表現するかが鍵となるだろう。
『テミスの不確かな法廷』のドラマ化は、日本のテレビドラマにおける「発達障害」の描写の変遷という点でも重要な位置を占める。『グッド・ドクター』(2018年放送)では山崎賢人が「サヴァン症候群の天才」として描かれ、『僕の大好きな妻!』(2022年放送)で百田夏菜子、『初恋、ざらり』(2023年放送)で小野花梨、『ドラゴン桜』第2シリーズ(2021年放送)で細田佳央太が、それぞれの解釈で発達障害の役柄を好演した。また昨年の『ライオンの隠れ家』では坂東龍汰の怪演が絶賛されたように、よりリアルで多様な特性として描かれる傾向が見られる。
本作において、原作が持つ骨太なメッセージがどこまで視聴者に響くのか。松山の新たな挑戦が成功すれば、日本のテレビドラマはまた一つ、表現の幅を広げることになるだろう。






















