『トリリオンゲーム』が81歳・池上遼一の新たな代表作に 『Dr.STONE』稲垣理一郎との異色タッグで見せた“化学反応”

※本記事は『トリリオンゲーム』単行本未収録の話の内容に触れる部分があります。連載を未読の方はご注意ください。
原作・稲垣理一郎と作画・池上遼一の異色のタッグによってビジネス、IT、エンタメを縦横無尽に横断するスピード感で、多くの読者を惹きつけた人気漫画『トリリオンゲーム』が、12月12日発売の「ビッグコミックスペリオール」2026年1号で最終回を迎えた。
「俺らのワガママは、世界一だ」を合言葉に、主人公のハルと相棒のガクの2人が1兆ドル企業を目指して奮闘する本作は、2020年に「スペリオール」で連載スタート。2023年にはSnow Man・目黒蓮主演でドラマ化、今年2月に劇場版も公開され、若者層からの支持が急拡大した。
最終回では宿敵ドラゴンバンクとの決着を経て、今度は「世界を獲る」ために次の一歩を踏み出すという、“らしい余韻”を残して物語は幕を下したが、完結にあたり池上は自身のXを更新。「連載を完走できて、今はほっとしています。連載当初は稲垣先生の新鮮で魅力に満ちた原作に、自分の筆がついていけるのか不安を感じていました。それが終盤になると、今度は体力の不安と向き合うことになりました」と率直な思いを明かしつつ、「それでもこうして描ききることができ、今は充実した気持ちです。映像化や漫画賞など、嬉しい出来事ばかりでした」と連載を振り返った。
『アイシールド21』『Dr.STONE』と立て続けにヒットを飛ばした稲垣は今や令和を代表する漫画原作者の一人だが、池上も言わずと知れた漫画界のレジェンド。昭和には出世作とも言える『男組』、平成には『サンクチュアリ』や『HEAT』といった代表作を世に送り出し、そして令和に『トリリオンゲーム』という新たな代表作を刻み、3つの時代をまたいで第一線に立ち続ける漫画家は極めて稀だ。
もともと劇画の名手として知られてきた池上にとって、コミカルでスピード感のある『トリリオンゲーム』は大きな挑戦だった。あるインタビューでは、企画を聞いた当初は「若い漫画家に任せた方がいいのでは」と感じ、さらに稲垣から渡されたのが、従来の脚本形式ではなく、コマ割りまで指定された“ネーム原作”だったことにも戸惑いがあったと語っている。しかし池上は、そのネームに込められたドラマ性と表情の力に驚き、「このセンスに自分の絵を掛け合わせてみたい」と考えるようになる。結果として生まれたのが、コミカルな原作と濃厚な劇画が融合した、“THE池上作品”とは毛色の違う作風だった。
ハルの「すべて計算済みの男だ」と感じさせる決め顔は池上が長年積み重ねてきた「男が惚れる男」を踏襲しつつ、小市民気質のガクが見せる大げさなリアクションはかつて自身の作風を『魁!!クロマティ高校』(野中英次)でパロディ化された経験が活かされていたようにも感じた。ともあれ、“ゼロから1兆ドル企業を創る”という荒唐無稽な超設定が説得力を持って成立していたのも、池上氏の圧倒的画力があったればこそだろう。
『トリリオンゲーム』は1兆ドルをゲットした結論を先に言ってから、その過程が描かれていたのが特徴的。そしてとにかく展開が早い。1話の中で数日や数年経っているスピード感や、主人公たち武器である“はったり”が次々と飛び出し二転三転する展開は今の時代ならでは。翻って、池上氏の劇画タッチはやもすれば“古臭い”と評されることもあるが、逆にスマホで読むためあっさりした画風が多いネット漫画になじんだ世代にはその“濃さ”は新鮮に映ったのかもしれない。池上氏が得意とする「男が理想とする肉体美」の描写もビジネス漫画であるゆえに少な目だったことで暑苦しさが軽減されたことも若者世代には受け入れやすかったのではないか。
稲垣との“化学反応”で御年81歳にして新たな代表作を生み出した池上。Xでは「今は仕事場で次回作の準備をしています。来年、また誌面でお会いしましょう」と綴っていたが、「進化するレジェンド」は次作でどんな挑戦を見せてくれるだろうか。





















