映画『ちいかわ』見どころは? ホラー展開にアクション描写……原作「セイレーン編」から考察

映画『ちいかわ』の見どころを原作から考察

※本記事は『ちいかわ』「セイレーン編」の内容に触れる部分があります。未読の方はご注意ください。

 『ちいかわ』初の劇場作品となる『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が、2026年夏に公開されることが発表された。原作者・ナガノの完全監修のもと、監督は及川啓、アニメーション制作はCygamesPicturesという布陣で制作される。

「セイレーン編」は『SIREN』級?

 題材となるのは、原作のなかでも人気が高い「セイレーン編」、通称“島編”。本稿ではその見どころと注目ポイントについて紹介していきたい。

 『ちいかわ』といえばほのぼのとした絵柄とは裏腹に、不穏な設定やスリルのある展開を随所に仕込んでいることでお馴染み。「セイレーン編」はその真骨頂とも言える内容で、ある意味では“作中最恐”のエピソードとなっている。連載当時には衝撃展開の連続によってSNSなどで大きな話題を呼び、ホラーゲーム『SIREN』に似ているという声も上がっていたほどだ。

 物語の発端となるのは、ちいかわたちが手にした1枚のチラシ。そこには「島でのカンタンな討伐で100倍の報酬をもらおう」「限定島ラーメンに甘いもの辛いものみーんな実質無料」といった甘い文句が並んでおり、ウキウキで“合宿”に出かけることにする。唯一ラッコだけは「怪しいッ」と訝しむものの、結局は限定スイーツに釣られてちいかわたちに同行するのだった。

 島に到着したちいかわたちは、ご馳走を用意した島民たちに熱い歓待を受ける。そして夜までリゾート気分を満喫するものの、偶然見つけた洞窟に入ったところで事件が勃発。巨大なセイレーンと人魚たちに襲撃され、あっさりと捕まえられてしまう。

 しかし目を覚ますと、セイレーンは「まちがえて襲っちゃったの」と殊勝な雰囲気。仲間の人魚を食べられたことから、島民のなかにいる「犯人」を捜しているという事情を語り出す……。

 友人たちと訪れた孤島やリゾート地で恐ろしい事件が起きるのは、ホラー映画の定番だが、「セイレーン編」で描かれるのもまさにそうした展開だ。一見友好的な島民がよく見ると怪しい反応をしていたり、島民たちが歓迎に歌ってくれる楽しげな曲の歌詞に「たすけて」というメッセージが隠されていたりと、序盤から不穏な要素が満載となっている。

 ストーリーの根底にあるのは、「人魚の肉を食べた者は永遠の命を得る」という八百比丘尼伝説をモチーフとした設定だが、“永遠の命”は素晴らしいものではなく、傲慢な欲望がもたらした罪として描かれる。それを容赦なく裁くのが、セイレーンだ。

 セイレーンは強大な力をもち、犯人捜しのために島民を食べていることを仄めかす恐ろしい存在。ただし邪知暴虐のモンスターというわけでもなく、物語が進むにつれてグロテスクな真相が明らかになっていくことが物語の肝となっている。

ちなみに映画化発表に合わせて公開されたビジュアルでは、ちいかわたちの乗る小舟の下にうっすらとセイレーンが浮かび上がるというホラーめいた仕掛けも仕込まれていた。

ホラー要素だけじゃない? 劇場版ならではのアクションにも期待

 また「セイレーン編」を語るうえで欠かせないもう1つの要素が、島二郎の存在だ。貝汁の店「島二郎」の店主をしている人物で、「味自慢」と書かれた前掛けをしており、とにかく見た目のインパクトが強い。窮地に陥ったちいかわを助けてくれる頼もしい存在で、その戦闘力はおそらく作中でも上位クラスだと思われる。

 小粋な性格の島二郎は、スリルに満ちた「セイレーン編」のなかで数少ない癒し要素となっている。ファンのあいだでは同エピソードの“MVP”とも言われる人気キャラクターであり、はやくもSNS上では「島二郎を“100億の男”にしよう」というスローガンも生まれているようだ。アニメでその華々しい活躍がどんなふうに描かれるのか注目したい。

 また「セイレーン編」は、白熱したバトルシーンが多く登場することも重要なポイント。セイレーンや島二郎以外にも、ラッコやうさぎ、モモンガなど戦闘力の高いキャラクターが勢ぞろいしており、シリーズ屈指の激闘が繰り広げられる。

 劇場版のアニメーション制作を担当するCygamesPicturesは、TVアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン』や、劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』などを手掛けてきたスタジオで、スピード感のあるアクション作画やダイナミックなカメラワークに定評がある。キャラクターのかわいらしさを損なわないまま、迫力のあるアクションを描けるかどうか、その出来栄えに期待したいところだ。

 さらに付け加えれば、原作ではエピローグにあたる部分で衝撃の描写が飛び出した。いまだに伝説として語り継がれているパートなので、これをいかに表現するのかということも劇場版の大きな見どころだろう。

ナガノの作家性が存分に発揮された「セイレーン編」。ちいかわたちの“忘れられない夏”がスクリーンで映し出される日を楽しみにしよう。

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