時代小説の新たな傑作 木内昇『惣十郎浮世始末』が第19回舟橋聖一文学賞に輝く

『惣十郎浮世始末』舟橋聖一文学賞を受賞

 『惣十郎浮世始末』(中央公論新社)が第19回「舟橋聖一文学賞」を受賞した。

 彦根市名誉市民第1号である作家・故舟橋聖一氏の文学の世界に通ずる文芸作品に対して、その名を冠した賞を授与し、香り高い文化を築くことを目的とした「舟橋聖一文学賞」。

 罪を見つめて、人を憎まずーーその男、服部惣十郎。改革の嵐が吹き荒れ、疫病が日常をおびやかす江戸後期。浅草の薬種問屋「興済堂」で火事が発生し、焼け跡から二体の骸が見つかった。北町奉行所の定町廻同心・服部惣十郎は、その不審な状況に疑念を抱き、岡っ引の完治や小者の佐吉とともに犯人を追う。一方、町医者の梨春は豊かな知見で惣十郎の調べを助ける傍ら、疱瘡(天然痘)の苦しみから人々を救うための医療書の翻訳を世に出したいと奔走していた。怪しげな祈祷師の騒動や、湯屋の三助の母殺し疑惑などにも向き合いながら、やがて惣十郎は思いも寄らぬ真相に辿り着くーー。江戸の町に生きる人々の哀歓を時代背景とともに丹念に描く、捕物帳の新たな傑作。

 『惣十郎浮世始末』は読売新聞連載中から反響を呼び、単行本発売以降もNHK、朝日新聞、WEB本の雑誌、読売新聞、AERA、週刊新潮など、各紙誌で多数取り上げられ、『時代小説SHOW』の2024年時代小説ベスト10【単行本部門】第1位にも選出された。続編の『惣十郎浮世始末 巻之二』が「読売新聞オンライン」にて連載中となっている。

 著者の木内昇は受賞に関して「このたびは、舟橋聖一文学賞をいただきまして、大変光栄に存じます。『惣十郎浮世始末』は、私にとってはじめての捕物帳となります。本作の連載をはじめるにあたり、付き合いの長い文芸記者の方から『捕物帳を書いてほしい』とのご提案を受けました。それまで捕物帳を書こうと思ったことすらなかった私は、大変戸惑いました。また、小説の題材に関しては自分で決めていたため、提案に沿って書くというのもはじめてのことだったのです。自分の中での定法に拠ることなく、一作一作なにかしらの挑戦をしようと心がけて書いてきたものの、今回は新聞連載という大舞台。あまり冒険するのはどうか。でも、自分の仕事によい形で風穴をあけられるかもしれないーーだいぶ逡巡したのちに挑戦することにしたのです。この挑戦が吉と出たか凶と出たか。それは読者に委ねるよりありません。ただ、本作に登場する惣十郎や梨春、完治、佐吉、お雅といった面々と共にいる時間は、私にとってとにかく楽しい時間でした。そうやって書き上げた作品が、このような賞をいただけて、報われたように感じています。この小説に関わってくださった、すべての方に感謝申し上げます。」とコメントしている。

木内昇(きうち・のぼり)

1967年、東京都生まれ。2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年に刊行した『茗荷谷の猫』が話題となり、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。11年に『漂砂のうたう』で直木賞、14年に『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞の三賞、25年に『雪夢往来』で中山義秀文学賞、同年『奇のくに風土記』で泉鏡花文学賞受賞を受賞。他の作品に『よこまち余話』『光炎の人』『球道恋々』『剛心』『かたばみ』『惣十郎浮世始末』『浮世女房洒落日記』などがある。

■書誌情報
『惣十郎浮世始末』
著者:木内昇
価格:2,585円(税込)
発売日:2024年6月7日
出版社:中央公論新社

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「新作」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる