『じゃあ、あんたが作ってみろよ』多くの視聴者に刺さる理由 モラハラ男の変化から見えること

『じゃああんたが作ってみろよ』刺さるワケ

 2025年秋ドラマで最も話題を呼んでいる作品は、原作を谷口菜津子がぶんか社の電子コミック誌「comicタント」で連載中の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』だろう。物語は一見するとお似合いの美男美女カップルがまさかの破局を迎える衝撃展開から始まる。

 原作の世界観はそのままに、ドラマオリジナルのエピソードも違和感なく盛り込まれた良作として、多くの視聴者の支持を得ている。本記事では、その人気の理由について考察していきたい。

己の傲慢さに気づいたナチュラルボーンモラハラ男の葛藤

 物語の主人公、大分県出身の三男坊でやや自意識過剰気味のイケメンエリートサラリーマン海老原勝男(えびはら かつお)31歳。これまで何不自由なく順風満帆のモテ人生を歩んでおり、大学時代に付き合い始めた山岸鮎美(やまぎし あゆみ)とは大学のミス&ミスターに選ばれる程のお似合いカップル。

 周囲からも羨望の目で見られ、自分の非など何一つ疑わないまま、きらめく未来に心躍らせ完璧なプロポーズを決めてみせる。しかしながら鮎美からは「ん〜無理」という温度差極まりない一発回答。そのまま自分の何がいけなかったのかもよく分からないまま別れを告げられ、うちひしがれる勝男。

 しかし勝男は、自身が何の気兼ねもなくナチュラルに鮎美を傷つけてしまうナチュラルボーンモラハラ男であることに後になって気付くことになる。勝男の好物の筑前煮を甲斐甲斐しく作ってくれる鮎美に対して「全体的におかずが茶色い」だの「1品酸っぱいおかずが欲しかった」だのと何の悪気もなく、むしろ善意のアドバイスのつもりでのたまう始末。

 失って初めて自分の過ちに気がついた勝男は、後輩の助言もあり今まで一度も作ったことがない筑前煮づくりに挑戦する。野菜を包丁で形よく切る大変さ、出汁の準備、落し蓋が必要なことに後で気づいてスマホレシピに文句を言ったり。結局出来上がった筑前煮は茶色も茶色の残念な見た目、当然味も美味しくなかった。

 目の前に出された手間暇かかった筑前煮を当たり前のように食べていた自分への後悔と、そんなこれまでの自分を変えたいと本気で涙する勝男の変化がその後の展開で垣間見れることが、多くの視聴者の共感を呼んでいることは間違いないだろう。

後悔と、次に後悔しない為の処方箋的人間ドラマ

 勝男と関わる人間達も、段々と変化していく勝男の姿を見て次第にポジティブな視線を向けていく点も印象的だ。勝男の会社の後輩で料理好き男子の白崎ルイも、当初は「料理は女が作るものだろう」と当たり前のように勝男から告げられることに苛立っていた。それが自分から料理にチャレンジし、相手のことを考えずに発言していたことを悔いて変わろうとする勝男の姿を見て、人間いつからでも変わることもできるのだな、と信頼し始めている様子が伺える。

 生意気な態度も端々に見え隠れする、同じく勝男の後輩の南川あみなも、モラハラ感満載の残念な男という評価から、苦手な料理にもなんでもトライし、少しずつだが相手の感情を慮る考え方ができるようになっていく勝男の姿にだんだんと好感を抱いていく。

 ドラマでは竹内涼真演じる勝男の残念さやコミカルな姿が大きな見どころではあるが、夏帆演じる鮎美の視点もまた興味深い。それまではただただ愛される女子を作りあげようとして、何か不満があっても笑顔の仮面を被り切り抜けていた鮎美。それがある時、全く考え方のタイプの異なる人の言葉から新たな価値観に出会い、自分の生き方の可能性を広げていく。

 男女それぞれの視点でこれまで知らなかった生き方のコツを学ぶことで「そういう考えもあるのだな」と視野を広げるきっかけになることも、多くの賛同を得られる理由なのではないだろうか。

 料理をすること、食べることは生きることに欠かせない。だからこそ料理を食べている瞬間はその人の本質が如実に現れるのだろう。醜く映る部分も、過去には感じ取れなかった相手の心情も、自分自身がそれを体験することでまた新たな発見ができるのではないだろうか。

 自分が今まで正しいと思い込んでいたものも、本当にそれが真実とは限らない。昭和の頑固親父が、出汁から丁寧に取った味噌汁を飲んでオレは違いの分かる男だと悦に入っていたとしても、その味噌汁が実はフリーズドライだったりするかもしれないのだから。

 まだ未視聴の方も今からでも追いかけるに値する、笑って泣けて、時に自分に突き刺さる痛みもあるような、そんな魅力に溢れた物語『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の世界をぜひとも体感してほしい。

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