令和の最恐ホラー漫画『ニクバミホネギシミ』はなぜ怖い? 人知を超えた“ナニカ”との遭遇の恐怖

世間はまさにホラーブーム全盛。小説や映画からYouTubeの動画まで、恐怖を題材とした作品が次々と生み出されている。そんな時代の流れのなかでひときわ異彩を放っているのが、『ニクバミホネギシミ』だ。“懐かしいのに新しい”という不思議な感慨を起こさせる独特のホラー漫画として、大きな話題を呼んでいる。
■諸星大二郎の名作に通ずる世界観とミステリー要素

同作は漫画家のパレゴリックが「くらげバンチ」で連載中の作品。主に本筋として描かれるのは、オカルトライターの犬吠埼しおいと霊感のあるカメラマン・浅間博鷹が謎めいた事象を取材していくという話で、バディものの怪異譚といった趣だ。
また主人公たちが怪異と立ち向かう際には、民俗学的なアプローチをとるため、さまざまなオカルト概念が飛び出してくる。その読み心地は諸星大二郎の名作ホラー漫画『妖怪ハンター』シリーズにも近く、古典的な味わいがある。
しかし正確に説明すると、この2人のエピソードは同作の片面でしかない。実は第1話の時点で、犬吠埼が怪死を遂げたことが明かされているからだ。物語は犬吠埼が生きている1999年と、甥の総一郎が「なぜ彼女はあのような最期を迎えたのか」という謎を解き明かそうとする現代パートに分かれており、それぞれが平行して描かれていく。
棺桶に入っていた犬吠埼の顔は人間とは思えないほどいびつに歪んでおり、その死にはどうやら「ニクバミホネギシミ」というものが関わっているようだ。そして総一郎の調査が進むたびに、新たな謎が浮かび上がっていく……。
すなわち現代パートはホラーミステリーのような構成で、読み進めるほどに好奇心をそそられる仕組みとなっている。さらに言えば、こうしたミステリー要素は「考察によって受け手が盛り上がる」という現代ホラーの特徴とも重なっているだろう。とはいえ同作の魅力はそれだけではなく、ホラー描写にも面白い部分がいくつもある。
人知を超えた“ナニカ”に蹂躙される人間たち

『ニクバミホネギシミ』で怪異として登場するのは主に人間の幽霊ではなく、人知をはるかに超えた存在たち。第1話で浅間の口から出てくる「死んだ人間が生きた人間を呪い殺す力なんてないよ」というセリフは、いかにも象徴的だ。このエピソードでは呪いの鏡をめぐる怪奇譚が描かれるのだが、災いを引き起こしているのは異形の肉体をもつ「見たことないナニカ」だった。
そのため犬吠埼たちが作中で対峙する怪異は、とてつもなく強い力を持っていることがほとんど。基本的に人間ではどうあがこうとも敵わない相手で、ただ怯えながら生き延びる道を探るしかない。除霊師などその道のプロを自称する人々であっても、撃退することはできないほどだ。
またホラー作品では、主人公が怪異の正体や呪いの仕組みを理解することで災いから逃れるという展開が一種のお決まりとなっている。今作でも犬吠埼や浅間はそうした解決手段を試みるものの、必ずしも成功するわけではなく、そもそも物語が始まった時点で犬吠埼自身が死亡していた。さらには、犬吠埼たちと出会ったときにはすべてが“手遅れ”だった……という哀れな人物すら描かれている。

こうした人間の絶望的な無力感こそが、同作で描き出される恐怖の核心ではないだろうか。その意味で傑作と言えるのが、3巻に収録されている第10話「弊呼殺し」。主人公となる高校生の晴彦が、家の小屋でミイラ化した大量の生首を発見するが、そのなかに自分の首があることに気づく。さらに父親の話によって、自分の血筋が人の頭をした牛「弊呼」(べっこ)に呪われていることを知る……というエピソードだ。
都市伝説の「牛の首」と妖怪の「件」(くだん)とクトゥルフ神話の「ティンダロスの猟犬」を独自に融合したような話なのだが、あまりに衝撃的で後味の悪いオチが付けられている。
なお、怪異を人間の理性を超えた存在として描くのは、「Jホラー」と呼ばれる日本のホラー映画の方法論にも近い。今年映画が公開された『近畿地方のある場所について』や『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』といった作品とも親近性があり、“古くて新しい”ホラー描写と大きく関係している。

同作の単行本は現在4巻まで刊行されているが、話が進むにつれて徐々に謎の核心に迫っている印象。とくに除霊師の火野青芳やその助手・三駄つるぎが絡むエピソードでは、浅間の家系にまつわる秘密が度々仄めかされている。
さらに最新刊では、犬吠埼に関する衝撃的な描写も飛び出しており、いよいよその死の真相に近づいているのかもしれない。
はたして犬吠埼の身に何が起きたのか。そして総一郎は彼女の死に隠された秘密を解き明かせるのか……。ここからますます物語が加速していきそうだ。
『ニクバミホネギシミ』は下記をチェック!https://kuragebunch.com/episode/14079602755395578456
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