スーパー戦隊シリーズとは何だったのか? 杉山すぴ豊が振り返る、米ヒーローとの関係とその歩み

スーパー戦隊シリーズが打ち切りになる、というニュースが駆け巡りネットが騒然となりました。このスーパー戦隊シリーズは日本のみならず世界においてもヒーローカルチャー、ビジネスにおいて大きな影響を与えました。それを自分なりの視点で振り返ってみたいと思います。
スーパー戦隊シリーズの定義
まずスーパー戦隊シリーズの定義ですが、いまの定義では1975年の『秘密戦隊ゴレンジャー』を一作めとしています。なのですが、80年ごろのオタク界隈では1979年の『バトルフィーバーJ』をスーパー戦隊一作目とみなしていた記憶があります。
というのも『秘密戦隊ゴレンジャー』と次の『ジャッカー電撃隊』までは、
1)石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)先生原作
→『バトルフィーバーJ』以降は東映オリジナル(原作者:八手三郎 名義)
2)土曜日の19時30分からの放送(なおこの記事の放送時間はすべて東京での放送時間です)
→『バトルフィーバーJ』以降しばらく戦隊ものは土曜日の18時からの放送
3)戦隊ロボは出てこない
→『バトルフィーバーJ』以降、戦隊ロボが登場
4)『ジャッカー電撃隊』の放送終了と『バトルフィーバーJ』の放送開始までは2年のブランクがある
というわけで、石ノ森章太郎ブランドの“戦隊もの”(ゴレンジャーとジャッカー)を、東映オリジナルで復活させたのが“スーパー戦隊もの”であり、従って『バトルフィーバーJ』が“スーパー戦隊第一号”という認識でした。しかし昨今では『秘密戦隊ゴレンジャー』からスーパー戦隊シリーズが始まったとされています。
スーパー戦隊、50年の重み
まず、この50年続いたヒーロー物というのはすごいと思います。50年以上、あるいは50年近く続いたシリーズを並べてみると、錚々たる面子に驚かされます。
・スーパーマン=87年
・バットマン=86年
・スパイダーマン=63年
・アベンジャーズ=62年
・スター・ウォーズ=48年
・ウルトラマン=59年(『ウルトラQ』カウントせず)
・仮面ライダー=54年
・ゴジラ=71年
・機動戦士ガンダム=46年
・NHK大河ドラマ=62年
しかもアメコミを除いて多くのヒーローコンテンツが何度か中断をはさみますが、スーパー戦隊シリーズにいたっては『バトルフィーバーJ』以降、毎年つまり46年間ノンストップです。日本のTVドラマ史においても画期的作品と言えるでしょう。
スーパー戦隊シリーズはいかにして生まれたか?
ここからは当時の特撮ムック等の受け売りですが、そもそも『秘密戦隊ゴレンジャー』誕生のきっかけには、東京/関東において『仮面ライダー(この時は仮面ライダーアマゾン)』シリーズの放送局が10チャンネルから6チャンネルに変わるという出来事がありました。10チャンネル(当時NET、現テレビ朝日)にしてみれば、せっかく子どもたちをとりこんだ仮面ライダー枠を失うわけです。
そこで東映×石ノ森章太郎ブランド物で新作を作ろうということになり、“ゴレンジャー”が生まれた。さらに仮面ライダーとの差別化ということで、集団ヒーローということになりました。石ノ森章太郎先生のヒーローチームといえば、すでに『サイボーグ009』という実績もあります。しかし、テレビドラマとなると5人がちょうど良いボリュームということで、子どもたちにわかりやすくするために仮面と色ですみわけしました。特筆すべきは女性をメンバーにいれたことです。子どもたちがごっこ遊びをする際、仮面ライダーだと女の子の役がないが、ゴレンジャーならある、ということだそうです。そしてとても大事なのは主役をはれる5人の超人の集まりではなく、5人そろってやっと1人前のヒーロー集団ということです。考えてみれば1人の怪人を5人がかりで倒すわけですから、そこが仮面ライダーやウルトラマンと違うわけです。
そしてこの石ノ森章太郎先生原作の戦隊ものは『ゴレンジャー』の後『ジャッカー電撃隊』と引き継がれ、1977年に一旦終了します。

そこで「マーベルの要素」と「巨大ロボおもちゃビジネス」という二つの視点を盛り込んだシリーズとして、『バトルフィーバーJ』が生まれます。詳細は省きますが、マーベル的なキャラとしてミス・アメリカが、そして巨大ロボットとしてバトルフィーバー・ロボが登場したわけですね。また、タイトルの「フィーバー」は、当時大流行していた、ジョン・トラボルタの映画『サタデー・ナイト・フィーバー』から取られました。つまり、戦隊ものの復活のきっかけには、マーベルと人気のハリウッド映画が関わっていたわけです。
なお、2作目の『電子戦隊デンジマン』『太陽戦隊サンバルカン』に出てくるヴィランのへドリアン女王は、マーベルの女性ヴィランのヘラがモデル。マーベル・シネマティック・ユニバース映画の『マイティ・ソー:バトルロイヤル』のヴィランでしたね。
子どもたちのトレンドによりそったヒーローたち
そして、スーパー戦隊シリーズは続いていきます。その時代ごとの子どもの流行を敏感に取り入れて。
例えばミニ四駆がブームの時は車モチーフの『高速戦隊ターボレンジャー』、『ジュラシック・パーク』で恐竜が流行りそうなときは『恐竜戦隊ジュウレンジャー』、また毎年ターゲットになる子どもは入れ替わっていきますから、「動物」「恐竜」「忍者」「車」といった子ども人気のモチーフはくりかえされます。
モチーフごとに分類すると、たとえば以下のようになります。
・動物(サンバルカン、ライブマン、ガオレンジャー、ジュウオウジャー)
・恐竜(ジュウレンジャ、アバレンジャー、キョウリュウジャー)
・忍者(カクレンジャー、ハリケンジャー、ニンニンジャー)
・車(ターボレンジャー、カクレンジャー)
筆者がマーケティングの仕事をしていた時、「子どものトレンドはスーパー戦隊のモチーフをみればわかる」と言われたことがあります。また、子どもたちの世界ならではのアイデア商品も生まれました。本来は玩具ではない「電池」をエンタメ化し、商品化したのがキョウリュウジャーの「獣電池」だそうです。スーパー戦隊をふりかえることは子ども文化をふりかえることでもあるのです。
世界のヒーローへ、パワーレンジャーズの誕生
さてスーパー戦隊ビジネスにとって大きなターニングポイントはなんといっても『パワーレンジャー』です。1993年アメリカで『マイティ・モーフィン・パワーレンジャーズ』(Mighty Morphin Power Rangers)というタイトルで放送開始。Morphinとは変形・変身みたいな意味ですから“最強変身パワーのレンジャー部隊”ということですね。
1992年日本で放送された『恐竜戦隊ジュウレンジャー』を基にアメリカ放送用に作り替えたです。以後、その年日本で放送した物を1年遅れでパワーレンジャーズに加工するというやり方(多少例外もある)で、2023年の『パワーレンジャーズ:コズミック・フューリー』(ベースは『宇宙戦隊キュウレンジャー』『騎士竜戦隊リュウソウジャー』)に至るまでPower Rangersブランドで放送。2022年の『パワーレンジャー・ダイノフューリーシーズン2』からネットフリックスで配信となりました。
日本で放送した特撮シーン、戦闘シーンを流用し、ドラマ部分はアメリカで新たに製作し、これを組みわせる形になりました。日本人俳優しか出演しないドラマはアメリカのTV向きでなく、また仮に追加撮影が発生した場合、日本のキャストはすでにその作品から卒業しているのでドラマ部分は新キャストということになったわけです。そもそもアメリカではこういう子供向けの実写ヒーロー物というのほとんどないので大人気となりました。
日本のスーパー戦隊にも関わり、パワーレンジャーズの方も担当している坂本浩一監督にお聞きしたことがあるのですが、ヒーローたちの名乗りのシーンが当初アメリカのスタッフたちに理解されなかったそうです。名乗っている間に敵が襲ってきたらどうするんだ、と。これがなぜ必要なのか説明するのが大変だったとか。
1995年と1997年には映画版も作られ、2017年にアメコミ・ヒーロー映画ブームにのる形で大作映画として『パワーレンジャー』が公開。後に実写版『アラジン』でジャスミンを演じるナオミ・スコットがピンクレンジャー役でした。
筆者がパワーレンジャーズの人気を肌で感じたのは1990年代後半にアメリカに行った時に、どのおもちゃ屋さんでもパワーレンジャーズが大人気だったこと。さらに、テレビで明らかにパワーレンジャーズの二番煎じである“Tattooed teenage alien fighters from beverly hills“(ビバリーヒルズからやってきた、エイリアンと戦うタトゥーをした十代たち”というすごいドラマをやっていたことです。どれだけ人気があるのかが伺えます。
パワーレンジャーズの仕掛け人はエンタメ事業プロデューサーのハイム・サバン率いるサバン・エンターテイメントでしたが、現在その権利はトランスフォーマーやG.I.ジョーの玩具で有名なハズブロがすべて買い取ったようです。ハズブロは東映版のスーパー戦隊の素材を使わない、独自のパワーレンジャーズ物を企画中とのことです。
どんな子も共感できるヒーロー物
パワーレンジャーズがアメリカの子どもたちにウケた理由の一つに、5人がマスクで顔を隠してるということがあったそうです。これにより異なる人種、ジェンダーの組み合わせによるキャスティングが可能となり、どんな子も共感できるヒーロー物となったそうです。
スーパー戦隊シリーズが本当に打ちきりか、現時点で公式の発表はありませんが、ウルトラマン、ゴジラ、仮面ライダーといった先輩たちも、何度かの中断を経て蘇りました。スーパー戦隊シリーズもまた、求めるファンがいる限り、なにかしらの形で続いていくのではないかと期待しています。





















