『沈黙の艦隊 北極海大海戦』大沢たかお“静の演技”が大絶賛 「令和仕様の原作改変」に戸惑いの声も?

9月26日に公開された映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』が、全国映画動員ランキングにて初登場で3位にランクイン。主演・プロデューサーを務める大沢たかおの演技が大きな話題となっている。
原作は昭和63年から平成8年まで「モーニング」(講談社)で連載されたかわぐちかいじの人気漫画。2023年の公開の劇場版第1作では、核ミサイル搭載原子力潜水艦「やまと」が「独立国」を宣言し、日米両国に反旗を翻すストーリーだったが、シリーズ第2弾となる本作は、北極海を舞台に国内外の政治や軍事、ジャーナリストを巻き込み、「やまと」が、アメリカの最新鋭原潜に狙われるという内容となっている。
北極のオーロラや氷塊のディテール、氷が砕け散る中で激しくぶつかり合う潜水艦バトルの衝撃などVFXによる高度な映像効果は観客からも絶賛の声があがっているが、やはり際立っていたのが館長・海江田四郎を演じた大沢の存在感だ。昨年公開の映画『キングダム 大将軍の帰還』で演じた王騎将軍は、巨体を生かして矛を振り回す“動の演技”が圧巻で、豊かな表情をネタにした「大沢たかお祭り」がネットを賑わせたものだった。
だが、本作は潜水艦という密閉空間とあって、海江田は直立不動の姿勢で一歩も動かず、基本的には無表情だ。それでも戦闘や危機的状況下で冷静に指揮を執る姿は、派手なアクションに頼らずわずかな動きや背中の“軸”だけでカリスマ性を表現する。まさに王騎将軍とは対照的な“静の演技”だった。
大沢自身、北極圏に過去3度赴き、息が凍る極寒やオーロラの光景を体験。それを撮影資料として監督に提供。役作りのために体重を5キロ減らすなど、細部まで徹底して海江田像を追求したという。
しかし一方で、原作ファンの間には「令和仕様」への改変部分に戸惑いの声も……。原作が発表されたのは約30年前。政治と軍事が絡む硬派な架空戦記とあって、作中に登場する重要人物はすべて男だ。印象に残っている女性キャラといえば、海江田の母親しか思い浮かばない。しかし、今作では令和という時代に合わせてか、オリジナルキャラとして上戸彩演じるジャーナリストを配置。日米の政治家や軍の要職にも女性が多数登用されていた。令和の時勢に合わせた演出としてやむを得ない改変ではあるが、武骨な作風を支持していたオールドファンには、やや薄味な印象を与えてしまったのかもしれない。
潜水艦同士の戦闘シーンとは裏腹に、作中もう一つの見せ場となった政治パート「やまと選挙」についても消化不良とのレビューが散見された。国の方向性が決まる重要な選挙のはずだが、前政権の与党が4つに分裂しただけでは、劇的な選択肢の対立構図が生まれず、観客に「国の未来を左右する重大局面」という緊張感を十分に伝えきれていなかったように思う。この点に関して、原作では「世界社会主義」を掲げた「革産連合」が結成され、選挙後に、連立政権に向けた生々しい駆け引きが展開されている。
実際、連載当時は読者の“熱”が現実世界に波及し、1990年には国会の答弁で『沈黙の艦隊』の名前が登場。1993年にはフジテレビで討論番組が作られ、各界の専門家が原作の政治家に成り代わって、日本国は自衛隊を手放して武力を国連に委ねるべきか、「やまと」を承認するべきか、核兵器の抑止力とはどのようなものなのか、と真剣に議論がされたほどだった。
また当時は、米ソが国際社会の軸となっていたせいか、劇中では大国・中国がまったく登場せずに話が進んでいるところも今作のツッコミどころか……。
ともあれ、原作改変に賛否がありつつも、『沈黙の艦隊』が問いかける「国家とは何か」「抑止力とは何か」というテーマは色あせず、令和の今だからこそ改めて向き合うべき問題を突きつけている。大沢の怪演と共に、好スタートを切った本作がどこまで“令和の観客”を魅了していくのか注目したい。























