映画『沈黙の艦隊』は原作ファンも納得の出来? 漫画版からの変更点とその効果を考察

映画『沈黙の艦隊』は原作ファンも納得の出来? 

 かわぐちかいじによる名作漫画『沈黙の艦隊』を原作とする実写映画が公開され、注目を集めている。本作の歴史は非常に長く、週刊漫画誌「モーニング」にて1988年~96年と8年にわたって連載され、コミックスは2023年1月時点で累計発行部数は3200万部を突破。アニメ、OVA、ラジオドラマ、ゲームなどのメディアミックスを繰り返しながら、長く愛されてきた作品だ。

 連載が終了してから27年の時を経てようやくスクリーンに登場したことは、期待されながらも「実写化不可能」と言われ続けていたことからも、ファンにとって心が躍る出来事になったに違いない。それでは、実際に公開された映画の内容はどうだったのか。原作と比較しながら解説していきたい。

 本記事はネタバレを含むため、未鑑賞の方は注意してください。

ストーリーはほぼ原作に忠実

 漫画原作の実写化において、多くのファンは「原作の設定やあらすじが大きく変更されること」を恐れるもの。しかし、映画『沈黙の艦隊』に関してはその心配をする必要がない。ストーリーそのものは原作に忠実なので、コアなファンも安心して鑑賞できるだろう。

 もっとも、「やまなみ」圧壊の冒頭部分にソ連が登場しない、海江田と深町のライバル関係を深めるエピソード、音声解析シーンなど細やかなところがカットされているなど、いくつかの変更点が存在するので、100%漫画のままではない点はご注意いただきたい。ただ、2時間の映画として成立させるため、この程度のアレンジならファンも許容範囲のはず。実際に観ると違和感はなく、むしろ丁寧な作り込みには感動さえ覚えるほどだ。

男性→女性に! オリジナルキャラクターも登場

 本作では、「やまなみ」副長の速水や防衛庁長官の曽根崎が女性に変わり、映画オリジナルキャラが数名登場する。

 『沈黙の艦隊』や『ジパング』など、かわぐちかいじ作品は力強い男同士の戦いに定評があるため、あの空気感が好きなファンにとっては、女性キャラが増えた点をすぐに受け入れられないかもしれない。またキャラクターのビジュアルは原作通りとは言えず、あくまで参考程度のものとなっている。

 これらの部分に関しては賛否両論。しかし、決して不要に追加されたオリジナル要素ではなく、細かなネタバレは控えるが、制作サイドが目指した“時代に沿った作品づくり”という趣旨に納得できる内容だ。ぜひ柔軟な姿勢で鑑賞されたい。

深町と海江田のキャラクター性が少し異なる

 原作の深町といえばとにかくアツい男。不器用ながらまっすぐな人間であり、少しばかり行き過ぎた言動が憎めないキャラクターだ。一方で海江田は若く爽やかな青年だが、時折見せる狂気と毒が禍々しさを彷彿させる。まさに魔神(デーモン)という言葉がぴったりの人物だろう。もともと正反対の2人だが、実写版だと各々のキャラクター性が若干異なっている。

 深町の“ゴツさ”はなく、ビジュアルはシャープな印象に。お得意の荒々しい発言もなく、正義感の強い王道的ヒーローのような存在感だ。あれほど「大胆」、「無茶」と言われていた大雑把さが消え、原作以上の真面目さが伺えた。また海江田だが、映画はベテラン艦長の風格を思わせるミステリアスなポジションに。大沢たかおの怪し気な魅力たっぷりの演技が、“ラスボス感”をさらに強調させる。彼の細心さは健在だが存在感が大きく、一度見たら絶対に忘れられないキャラクターに仕上がっている。

 陰と陽の表現の仕方は違えど、一工夫加えることで対立がより一層リアルに描かれたと言えるだろう。

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