映画に続きドラマ版も好調の『沈黙の艦隊』 海江田四郎はなぜ乗組員と読者を魅了するのか

『沈黙の艦隊』海江田四郎の魅力

※本記事は『沈黙の艦隊』のネタバレを含みます。

 2023年に公開された映画版が話題を呼び、2月9日より、完全版&続編が連続ドラマとしてAmazonプライムビデオで配信中の『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ)。これらの映像作品を観て原作漫画を読み始めた人も多そうだが、気がつけば海江田四郎という男に惹かれ、まるで乗組員のように惚れ込んでいてもおかしくない。本稿ではその魅力をあらためて解説するが、物語の核心に触れる部分があるため、原作未読の方はご注意いただきたい。

令和になって待望の映画化を迎えた『沈黙の艦隊』

 漫画『沈黙の艦隊』の連載がスタートしたのは1988年。週刊漫画誌『モーニング』にて8年にわたり連載が続いた。本作の連載が始まった1988年10月は、大きな海難事故「なだしお事件」が発生したばかりの頃だ。当時すでに人気作家として活躍中だったかわぐちかいじの新作であり、題材が海上自衛隊となれば注目が集まる。瞬く間に人気を広げ、アニメやOVAなどメディアミックスを成功させていく。

 しかし戦争や政治をテーマにし、壮大な世界観を持つ作品のため長年の間「実写化は不可能」と言われていた。映像技術の問題もそうだが、核兵器や国際情勢というセンシティブなテーマを映画としてどう扱うか、というのも考えどころだったに違いない。時代と共に、映像技術の進歩と、物語に対する捉え方にも変化があり、本作は誕生から30年以上の時を経て映画化され、新たなファンを獲得していった。

乗組員と読者を魅了する海江田四郎

 主人公である海江田四郎は、一度見たら忘れられないキャラクター。決して見た目の特徴が強いわけではなく至って普通の青年なのだが、とにかく内面がいい意味で“イカレ”ている。これは誉め言葉だ。

 窮地に立たされてもとにかく冷静、表情一つ変えず船長の任務を全うする。乗組員にとっては非常に頼もしいリーダーなものの、人間味があまりに薄いので、読み始めのころは異様な怖さを感じたのを今でも忘れない。最初の時点では淡々と指揮を取り、戦闘を繰り返すマシーンのような印象が大きかったからだ。

 しかし異様なまでの落ち着きと揺るがない安定感、足を止めずに歩み続ける姿を見ていると徐々に心を奪われていく。本作には様々な船長が登場するが、その中でも彼は群を抜いて実力が高く、言動の説得力が誰よりも力強いのである。独特の言葉選びのセンスもまた、いい。

 リーダーにふさわしい要素を兼ね備えた人物だからこそ、乗組員も忠誠を誓ったのだろう。多くの人間を魅了する海江田は読者の心までもかっさらい、作中では能力の高さに感心する政治家さえ現れたのだから、恐ろしいほどの影響力を持つ人物とも言える。

カリスマ性と圧倒的センス

 序盤では真の目的が明かされず、テロリストとして世間を逆走しているかのように描かれている。

 徐々に海江田の思い描く世界が露呈されると、思わず「なるほど……」と呟いてしまう。物語が進むにつれて、世界観が強い悪魔(デーモン)から、世界平和のために動く救世主へと印象が大きく変わるため、読めば読むほど海江田ワールドにずぶっとハマる。

 乗組員から信頼を集める理由が最初はわからなくとも、無駄がなく洗練された立ち回りをする戦いぶりを見れば誰もが納得。あの安定感と芯の強さ、大胆に勝利を掴みに行く姿勢はそう簡単に真似できるものではないだろう。冷静で感情に任せた行動を図らないからこそ叶う、模範的な戦闘スタイルだ。

 人間味が薄く「もしやただのサイコパスなのでは?」と最初は思いきや、どんどん印象がひっくり返っていくので面白い。マイナスが時間を追うごとにプラスになり、話を全て読み終わる頃にはすっかり海江田のファンになっている読者も実は多いとか。

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