『薫る花は凛と咲く』不良×お嬢様のコテコテ設定もなぜヒット? 純度100%のピュアネスに迫る

三香見サカによる『薫る花は凛と咲く』。底辺男子高校に通う紬凛太郎と、お嬢様女子高校に通う和栗薫子。隣り合うもいがみ合う2つの高校を舞台に2人が織りなすピュアキュンな青春学園漫画だ。
あらすじを読むとよくある男子校と女子校の青春恋愛ストーリーだが、累計発行部数は750万部を突破し、現在放送しているアニメは話題沸騰中だ。人の心を掴んで離さない、本作の魅力を改めて深堀りしたい。
まず特徴として押さえておきたいのが、本作は少年漫画ということ。筆者は、よく行く本屋で本作が少女漫画の棚に置いてあったため少女マンガだと思いこんでいたのだが、この作品は「マガジンポケット」(講談社)で連載中のれっきとした少年漫画。「マーガレットコミックス」(集英社)、「花とゆめコミックス」(白泉社)、「フラワーコミックス」(小学館)、「KCデザート」(講談社)などの大手少女漫画レーベルの作品と一緒に並べられていても(もちろん読んでみても)違和感を感じない。ここまでピュアでまっすぐでまぶしい青春漫画は、少年漫画としては異彩を放っているとさえ言える。
主人公の凛太郎が通う千鳥高校は底辺校ではあるが、一昔前にあふれていたケンカしたがりの不良がいるわけではない。ただ勉強があまり得意ではないだけの、普通の男子高校生が集まる高校。桔梗女子はお嬢様校ではあるが、ヒロインの薫子自身はお嬢様ではなく一般家庭で育っており、自身の努力によって特待生として桔梗女子に入学した秀才だ。つまり、不良とお嬢様の物語ではなく、どこにでもいるであろう高校生男子と高校生女子の物語ということだ。
一見特別そうな設定に見えるけれど、不良でもない、お嬢様でもない、特別ではない登場人物たち。そこに、各キャラクターの丁寧な心理描写が描かれていることで、唯一無二の奥行きが表現されているのだ。
凛太郎は、金髪ピアスで派手な見た目に強面ではあるが、実は誰よりも優しく、自分のことよりも相手の気持ちを大切にする心の優しい青年だ。見た目によって悪い噂を立てられたり、勘違いされてしまうがゆえに、自分のやりたいことやしたいことを素直に表に出すことが苦手で、理解してもらうことを諦めていたが、薫子と知り合うことで、少しずつその心境が変化し成長していく。
一方の薫子は、ふんわりとした見た目のなかに自分が決めたことをやり遂げる強さを持ち、思ったことをきちんと伝えることができる女の子だ。ただ柔らかいだけではない芯の強さは、同性からも羨ましがられる。
この2人の心の動きを軸に物語は進んでいくが、不器用ながらも誠実に相手と向き合おうとする姿や、人と真正面から向き合おうとすると誰もが一度は経験するもどかしさが丁寧に表現されている。ついつい応援したくなり、その先うまくいきますようにと願わずにはいられない、見守りたくなってしまうような親心が芽生えてしまうのだ。
印象的だったのが、凛太郎が桔梗女子の薫子と会っていることをうまく友人たちに説明できず、距離を取ってしまう場面。もうこれ以上、友人たちに隠し事はしたくない、薫子との関係も大切なんだとちゃんと伝えたい。そのために協力してほしいと薫子たちに頭を下げるシーンは、こんなにまっすぐな男の子今どきいる?! というくらい眩しく感じると同時に、ずっとまっすぐなままでいてくれ……。という気持ちにもなり、凛太郎の成長を感じて心が温かくなった人も多いだろう。
見た目や肩書だけで判断せず、自分の人となりをきちんと理解してくれる人と出会うことの大切さを痛いほど感じてしまうのは、私たちが無意識にそんな存在を求めているからではないだろうか。だからこそ、葛藤しながらもまっすぐに自分の気持ちを伝えようとしてくる登場人物たちがまぶしく見える。
自身の経験と重ねたくなるような繊細な心理描写と、応援したくなるくらいまっすぐな登場人物たち。それが、本作がここまで共感を呼んだ理由かもしれない。
同作のアニメは9月27日放送の第13話で一区切りを迎えるが、原作ではアニメのその先まで話が進んでいるので、アニメでハマった人はあのやさしい世界観をぜひ原作でも楽しんでほしい。2人の将来がこれからどのように進んでいくのか、これからも目が離せない。
























