『ウマ娘 シンデレラグレイ』オグリキャップの経済効果は大谷翔平の10倍? 社会現象にまでなったその活躍ぶり

TVアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第2クールが2025年10月5日からTBS系列で放送開始される。「週刊ヤングジャンプ」で連載中の同名コミカライズも好評であり、今回のアニメ化決定はファンの期待をさらに高めている。
だが、物語の中心となるオグリキャップという競走馬について、令和世代の多くはリアルタイムでその活躍を目撃していない。オグリキャップとは一体どのような存在だったのか、そしてなぜ社会現象にまでなったのか――。
オグリキャップは1987年、岐阜県の地方競馬・笠松競馬場でデビューした地方出身馬だった。血統的には決して恵まれておらず、中央競馬のエリート達と比べると「三流血統」とさえ呼ばれた馬である。そんな馬が翌88年春、中央競馬に移籍すると、そこから快進撃が始まった。NZT4歳ステークスを7馬身差で圧勝し、マイルCS、安田記念、毎日王冠、有馬記念などを制覇。同世代のクラシック路線に乗れなかったハンデをものともせず、古馬戦線の主役にのし上がっていった。
その戦績は地方・中央通算で32戦22勝、2着6回、連対率は驚異の87.5%という数字を誇る。しかも、勝った相手はタマモクロス、イナリワン、スーパークリークといった歴史的名馬ばかりであった。まさに現役時代のライバル全部乗せの激戦を生き抜いた馬であり、「強さ」そのものが物語を支えていたと言える。
そして何より注目すべきは、その経済効果だ。中央競馬の馬券売上は、オグリキャップが中央入りした1988年に初めて2兆円を突破。それが現役最後の90年には、一気に3兆円の大台に乗った。わずか2年で1兆円増――これがオグリキャップの動かした規模である。昨年10月には関西大学の宮本勝浩名誉教授が大リーグ・大谷翔平選手の経済効果を年間1100億円と試算していたが、オグリキャップはその約10年分に匹敵するインパクトを、しかもインターネットもSNSもない時代に生み出していた計算になる。まさに平成初頭の国民的スターだったと言える。
オグリキャップの人気は競馬場の外にも広がった。代表的なのがぬいぐるみブームである。小さなものは2000円、大きなものは4万円という価格設定にもかかわらず、発売開始から1年で160万個が売れ、最終的には300万個以上、クレーンゲーム景品を含めれば1100万個にも達したとされる。ぬいぐるみを抱えて競馬場に集まる若い女性ファンは「オグリギャル」と呼ばれ、競馬場の風景を一変させていた。
ほぼ同時期にデビューした武豊騎手の台頭、バブル景気による消費意欲の高まりと相まって、競馬は国民的娯楽として定着。街では「オグリキャップ見に行きませんか?」という誘い文句がナンパに使われていたとも言われ、競馬が若者文化の一部に組み込まれていたことがわかる。
それまで中高年男性が中心だったスタンドに、家族連れやカップルが訪れ、華やかな空気が広がった。ポスターに一言「ありがとう」とだけ書かれた広告が全国に掲示され、それだけで多くの人が胸を熱くした。こうした現象は、オグリキャップが単なる強い競走馬ではなく「時代が求めたアイドルホース」であったことを物語っている。
1990年になると、オグリキャップは宝塚記念以降、まさかの連敗を喫する。かつての無敵ぶりが影を潜め、ファンの間には「もう終わったのではないか」という失望感が広がった。だが、同年末の有馬記念で迎えた引退レースで再び輝きを取り戻す。誰もが勝利は難しいと予想していたが、レースでは見事に先頭でゴール板を駆け抜けた。中山競馬場には約17万8000人という史上最多の観客が詰めかけ、その歓声は地響きのようだったと伝えられている。この「奇跡のラストラン」は、今も競馬史上最高の名場面として語り継がれている。
オグリキャップの人気と影響力2010年の死後も続いた。2017年のNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』では番組史上唯一、人外として「競走馬オグリキャップ」が取り上げられた。この回では「競馬は知らないが、オグリキャップは知っている」という言葉が紹介され、スポーツや競馬の枠を超えて国民的存在となっていたことが強調された。
令和の時代に生きる若者にとって、競馬と聞くとディープインパクトのほうが馴染み深いかもしれない。しかしオグリキャップを知る世代からすれば「比べ物にならない」という答えが返ってくるだろう。比肩する可能性があるとすれば、オグリキャップ登場の十数年前に活躍した「ハイセイコー」くらいだろうか。
アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』は、そうした歴史的背景を物語として描くものであり、オグリキャップが競馬を国民的娯楽へと押し上げた事実を現代の視点から再確認することができる。伝説を知れば、アニメの興奮はさらに増すことだろう。






















