櫻井翔は“現代建築”とどう向き合ってきたのか? 藤本壮介らとの交流を振り返って

櫻井翔は“現代建築”とどう向き合ってきた

 櫻井翔が建築物と出会う旅を追体験する。そんな1冊が10月21日に発売される。タイトルは『櫻井翔の建築を巡る旅。【現代建築編】』(マガジンハウス)だ。

 本書は、雑誌『Casa BRUTUS』で2011年から続く連載「櫻井翔のケンチクを学ぶ旅。」の中から、現代建築を訪れた回を建築家ごとにまとめたものだ。「建築」と聞くと少しハードルが高く感じられるかもしれないが、心配はいらない。

 書籍化を受けて、櫻井は「『ケンチクを学ぶ旅。』という名の通り、僕は建築を知らないという立場から学んできただけなので、建築に詳しくない方にも楽しさが伝わるんじゃないかなと思っています」とコメント。たしかに、これまでの櫻井の「ケンチクを学ぶ旅。」を振り返ると、そこには櫻井の新鮮な感動を共有する時間だった。

 櫻井が『Casa BRUTUS』初登場となったのは2010年9月号だった。向かったのは建築とアートの聖地とも呼ばれる「直島」。翌年2011年3月号より始まった同連載で、これまで櫻井が足を運んだ日本全国の建築は150カ所以上にもなるという。

 例えば、2024年12月号で訪れたヴィレッジ・アズ・アンスティチュ。「うわっ、想像以上に緑が多い。森と建築が一体化しているんですね」と思わず口をついた率直なリアクションが、まるで一緒に歩いているかのような臨場感を伝える。「東京・飯田橋駅から歩いて7分」という情報からは想像できない緑豊かな景色のイメージが広がるのだ。そして、キラキラと木漏れ日が美しい写真にも思わず肩の力が抜ける。

『Casa BRUTUS』2024年12月号より

 まだまだ戦後の空気が色濃い1952年に設立された東京日仏学院は、戦後モダニズム建築の名作。1937年開催のパリ万博博覧会で日本館を設計した建築家・坂倉準三が手掛けたもの。そして2021年、建築家・藤本壮介によって新館「ヴィレッジ・アズ・アンスティチュ」が完成。2013年12月号で旧校舎を取材していた櫻井が、11年ぶりに再訪するというのもまた感慨深い回だった。

 坂倉が師事したル・コルビュジエによって提唱された「建築的プロムナード」。そのイズムを受け継ぐ形で、藤本は建築と森の融合を目指したという。さらに年月を重ねていくことによって、周りの木々が成長し、新館はさらに森の一部となっていくそうだ。そんな末永い視線で設計された空間に、櫻井も「「訪れるたび、新たな発見がありそうです!」と思わず声を弾ませる。

 そして「ル・コルビュジエ好きの藤本さんのお話も興味深かった。建築家というよりイチ建築ファンとして、少年のように目を輝かせて話してくださったことが忘れられません」と締めていた櫻井。そんな櫻井と藤本が、今度は2025年6月号の大阪・関西万博で再会するというのも、長期連載ならではの縁だ。

 藤本が手掛けた「大屋根リング」は会場のシンボルとも言える世界最大の木造建築。そこから各国のパビリオンを一望できる景色に、「思わず感動しました。分断が激しい今だからこそ『世界はひとつになれる』というメッセージが強く響く」と語ったことも記憶に新しい。

 櫻井が取材を続けてきた「櫻井翔のケンチクを学ぶ旅。」は、一見すると無機質に感じられる建築と向き合いながら、そこで出会う建築家や案内人といった“人”の思いに触れる旅でもある。

 印象的なのは2018年11月号の東京特別編。連載7年を迎えた当時、櫻井はすでに東京23区内で62カ所の建築を取材していた。地図に打たれた赤い印をなぞりながら、「7年間でこんなに多くの建築を取材させてもらったんですね」と感慨深く語る姿が強く心に残っている。

『Casa BRUTUS』2018年11月号の東京特別編より

 さらに「連載の初期に訪れた建築も、ついこの間のことのように思い出せます。建物の名前を見ると、その時案内してくださった方の顔や、その日の天気まで蘇るんですね」と話す。その人を想う姿勢こそが、建築と読者を温かくつなぐ力になっている。

 建築とは過去を学び、現代を映し、そして未来に思いを馳せるきっかけをくれるもの。そんな気づきをくれる櫻井の旅が、1冊にまとまるのは櫻井にとっても、そして読者にとっても「悲願」だ。「僕が体験した感動を共有してもらえたら嬉しいです」と櫻井がコメントしていたように、この1冊を手に日本全国を歩いてまわりたくなることだろう。

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