今どきの高校生は「多様性」という言葉が嫌い? 『今どきの若いモンは』吉谷光平独占インタビュー

『今どきの若いモンは』吉谷光平が語る

 累計発行部数は130万部を突破し、2022年には反町隆史と福原遥の主演でTVドラマ化された漫画『今どきの若いモンは』(Cygames)で知られる漫画家・吉谷光平が、7月25日に千葉県立小金高等学校で高校生を対象とした講演会に登壇した。

 今回の講演会には県内14校の高校から、生徒・教師合わせて約70名が参加。社会人の「働き方」や「生き方」を描いた本作が、「千葉県の高校図書館職員が選ぶ生徒に読んでほしいイチ推し本!」の1冊に選出されたことから実現したという背景がある。

 「“今どき”の高校生の皆さんと直接交流し、自分の経験や漫画に込めたメッセージを届けることで、皆さんの未来を応援したい」と自ら参加を希望したという吉谷氏。就職・進学を控えた高校生たちとの交流では、どのような対話が生まれたのかーー。本稿では講演会後の吉谷氏に当日の様子や作品に込めた思いについて、話を聞いた。
※講演会のレポートはこちら(https://realsound.jp/book/2025/08/post-2121376.html)から

現代の高校生は「多様性」という言葉が嫌い?

ーー本日は講演会、お疲れさまでした。高校生と話してみていかがでしたか?

講演会を振り返る吉谷。ちなみに写真左のイラストパネルは小金高校の校長先生も「学校に欲しいなあ……」と呟いていた。

吉谷光平(以下、吉谷):自分が思っていたよりちゃんと聞いてくれてるなという印象でした。講演会中に寝てしまう子とかもいるかもと思っていました、高校生の頃の自分がそうだったので(笑)。

ーー講演で印象に残った高校生の言動はありましたか?

吉谷:「『多様性』という言葉は好きですか、嫌いですか」とそれぞれに挙手するかたちで尋ねたら「嫌い」に手を挙げてる生徒が多かったことがとても面白かったです。

 「『多様性』という言葉はなんで嫌いなの?」と尋ねると2人くらい答えてくれて。多様性という言葉でひとくくりにされたくないという思いが印象的でした。

 今の若い世代はあまり怒りを感じていないかなと思っていたのですが、回答からは少し怒っている感じを覚えました。若い世代に対する自分の偏見が解けたのでよかったなと思います。

ーー「多様性」という言葉が好きな高校生が少なくて驚きました。

吉谷:若い世代ほど多様性を肯定し「多様性が尊重されることは当たり前だよね」くらいのテンションかなと思っていたら、意外とちょっと尖ったこととかも言えてて……。しっかりと物事を考えていることが感じられ、ハッとさせられました。

ーー作品を作る上で多くの取材を重ねていると伺っております。取材する際に気をつけていることは?

吉谷:取材しすぎることもよくないと思っています。本作はあくまでフィクションなので、漫画としての面白さを成立させないといけない。そのために取材したことのすべてを漫画に出せるわけではありません。エンターテインメントとしての漫画がつまらなくなってしまったら本末転倒なので。

 また取材する上で具体的なエピソードはなるべく聞きたいと思ってます。なかでも「そのときにどう感じたか」といった気持ちに関するエピソードは漫画として描きやすいです。

ーー取材で印象に残ったお話はありますか?

吉谷:作中でスーパーマーケットの売り上げを予測するエピソードがあるのですが、例えばその日の天気で売り上げが大体わかるなど、漫画ではかなり誇張して描いていたように見えたかと思います。しかし作中で描いたものは、実際に取材で店員さんが話していた内容をほとんどそのまま描いたものでした。まさに漫画っぽいお話だったので、そのまま漫画のエピソードに入れましたね。

現代のアラサー世代が抱える葛藤

ーー若い会社員・麦田と上司の石沢課長の日常的なやり取りから始まった本作は現在、いわゆる「お仕事もの」としての長編漫画へと変化しているかと思います。そのターニングポイントは?

吉谷:路線変更することは最初から決めていました。当初、本作とは別で恋愛漫画(『恋するふくらはぎ』秋田書店刊)の連載開始が決まっていたんです。連載開始までの期間にSNSでの活動を頑張り、盛り上がった状態で連載をスタートしたいと思っていくつかの作品をSNSに投稿しました。そのなかの1本が本作の第1話でした。ただ本作が予想以上の反響をいただいたため「こっちも頑張った方がいいな」と思い、2本を同時並行で制作していきました。

 最初は短いページ数で大喜利のようなネタを描くスタイルでやっていこうかとも思ったのですが「これは絶対に続かない、そんなに大喜利のネタが出てこないぞ」と思って。当時Cygamesの担当さんと話すなか、単行本1巻の途中から徐々にサラリーマンの成長物語へとシフトしていき、2巻以降はお仕事ものの漫画として展開する方が、作品を長く描き続けられると思いました。

ーー本作の連載開始から7年が経ちますが、時代に合わせたチューニングは意識している?

現在麦田はアラサーだが、40、50……と歳を重ねて行く未来も見れるのかもしれない。

吉谷:「スーパー(マーケット)」編で思ったんです、「これはそろそろ、麦田がちゃんと年を取っていかないとおかしいな」と。これまで「今どきの若いモンは」と言われる若者側だった麦田をアラサーにして、麦田が「今どきの若いモンは」と言っちゃう側にしちゃえば面白いんじゃないかと思いました。

 麦田は自分と同世代の人物として描いているのですが、商社に勤める同世代の人たちと話すと「『パワハラ』と言われるのが怖くて怒れない」という話がとても多くて。ただ自分の世代が若者だったころは上司から「これだからゆとり世代は……」と怒られることが多かったと思います。

 上の世代から圧をかけられつつも、下の世代には言いたいことを言えない……そんな現代のアラサー世代を作中で描けたかと思います。

ーーアラサーになった麦田は、これまでとは違った大変さを抱えていると思います。

吉谷:麦田の成長物語としての着地点は石沢課長みたいな良い上司になることだと思います。ただ、その着地点へすぐに到達してはいけない。いきなりスマートな上司にはなることは不可能でありつつ、部下からは理想の上司は求められるーー。今の麦田はそんな風に苦しんでいると思います。

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