選挙の醍醐味がわかる? 『票読みのヴィクトリア』『クニミツの政』『イーグル』……読者を「知る側」へ誘う選挙漫画3選

選挙の醍醐味がわかる? 選挙漫画3選

 総務省によれば、7月20日に行われた参議院議員選挙の投票率は58.51%で、2022年の前回参院選の52.05%から6.46ポイント上昇。民主党政権下だった2010年以来、久々に50%台後半を記録した。そして注目すべきは、18・19歳の投票率も41.74%と6.32ポイント上がっている点だ。

 これまで「選挙に行かない」「関心がない」と見なされていた10代が、少しずつ政治に目を向け始めている背景には、SNSやネット動画を通じた政治情報の広がりや、自分たちの将来を真剣に考える声の高まりがあるのだろう。そんな今だからこそ、改めて手に取りたくなる「選挙漫画」を紹介したい。

選挙には戦略があるーー『票読みのヴィクトリア』

 まずは、現在講談社「モーニング」で連載中の『票読みのヴィクトリア』から。原作は鈴鈴木コイチ、作画は『神の雫』シリーズのオキモト・シュウ。選挙コンサルタント・赤城翼が依頼人である候補者をあらゆる手段で勝たせるというスリリングな物語だが、本質は単なる勝敗の駆け引きではない。市長選、区議選、生徒会長選挙、国政選挙などスケールの異なる選挙を舞台に、「当選ラインまであと何票足りないのか」「どの戦略で何票を稼ぐのか」といった票読みのプロセスが詳細に描かれる。

 例えば、ポスターのデザインが引きの画だったことで「マイナス7000票」、電話かけと選挙カー演説のとりやめで「マイナス3500票」、事務所が人の寄り付かない雑居ビルの3階であることで「マイナス1000票」と数値化され、得票数には明確な理由があるという視点が提示されているのだ。 選挙を「感覚」ではなく「戦略」として捉える姿勢が、この作品の醍醐味である。

『サイコメトラーEIJI』のタッグが贈る青春×政治エンタメ『クニミツの政』

 一方、政治と人間の情熱を描いたのが、2001~2005年に「週刊少年マガジン」(講談社)で連載された『クニミツの政』だ。作者は『サイコメトラーEIJI』の安童夕馬×朝基まさし。もともと同作のスピンオフだったが、全27巻の大ヒット作となった。

 物語は、中卒ヤンキー・武藤国光が代議士の秘書として政治の世界に入り、市長選を通じて成長していく青春×政治エンタメ。漫画だからこそ可能なダイナミックな展開と、硬派なテーマのバランスが絶妙だ。

 この作品の面白さは、選挙戦の表層を越え、農薬問題や医療制度、学級崩壊、マスコミと政治の癒着といった構造的問題にも切り込んでいる点にある。

 国光の行動は時に暴走気味だが、そこには確かな「怒り」と「愛」があり、読む者の感情を揺さぶる。国光が仕える坂上龍馬や、超高校級の参謀・吾妻光明といったキャラクターとの関係性も大きな魅力だ。若い読者が政治に関心を持つ入口として、この作品は強い力を持ち、「選挙に行かないと変わらない」「何のために誰に投票するべきか」といった明快なメッセージが全編に貫かれている。

ミリタリー漫画の巨匠・かわぐちかいじが描く政治ドラマ『イーグル』

 最後に紹介したいのが、かわぐちかいじによる『イーグル』だ。9月には同氏の『沈黙の艦隊』が映画公開される予定だが、この作品も決して埋もれさせたくない秀作である。

 1998~2001年に「ビッグコミック」(小学館)で連載された本作は、日系アメリカ人のケネス・ヤマオカがアメリカ大統領選に挑む姿を描いた重厚な政治ドラマ。彼に密着する新聞記者・城鷹志の視点を通じて、選挙制度、移民政策、人種差別、メディアのあり方がリアルに描かれていく。物語が90年代後半に描かれたにもかかわらず、作中の共和党候補・グラントの発言が、のちのトランプ大統領を想起させるなど、今読むと作者の先見性の鋭さに改めて驚かされる。

 予備選、全国党大会、本選挙と続くストーリーは、まさに選挙戦の教科書的展開。密室政治やスキャンダル、メディア戦略など、選挙の裏側を丹念に描きつつ、作品としてのエンタメ性も高い。読者はヤマオカの人間性とカリスマに惹かれながら、その「正しさ」を記者と共に見極めていくことになる。「スーパー・チューズデー」や「指名獲得」など選挙用語に馴染みのない人にも、ぜひ読んでほしい作品だ。

 『票読みのヴィクトリア』が選挙のロジックを、『クニミツの政』が政治への情熱を、『イーグル』が国際的視点とジャーナリズムの力をそれぞれ描く。共通するのは、「選挙は他人ごとではなく、自分の生き方に直結している」という視点だ。

 ページをめくることで、読者は「知る側」へと一歩踏み出すことができる。それこそが、“次の一票”への入口となるはずだ。

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