ドラマ版がエミー賞受賞 日本のワイン漫画『神の雫』が世界でここまでウケた理由を考察

『神の雫』が世界でウケた理由

 動画配信サービス「Hulu」で現在配信されたドラマ「神の雫(しずく)/Drops of God」が、国際テレビ芸術科学アカデミーが主催する第52回国際エミー賞を受賞し話題だ。エミー賞とは、映画のアカデミー賞や音楽のグラミー賞、演劇のトニー賞と並ぶ米国の4大エンターテイメント賞の1つで、ショービズ界の権威に当たる。

 漫画版も、シリーズ全世界累計発行部数が1500万部以上の世界的ヒットを飛ばしている『神の雫』。本稿では、ワインを題材にした日本漫画がなぜここまで世界に受けたのかを考察したい。

冒頭からマニアックなワイン知識炸裂!とにかく情報量がすごい

 『神の雫』を読んで、まず驚くのがその情報量の多さと、内容のマニアックさだ。たとえば第1話。本作ヒロインの紫野原みやびが働くワインバーに、大手ビール会社「太陽ビール」の営業マンである主人公・神咲雫とその取引先の社長一行が訪れたエピソード。

 まず1話冒頭、取引先の社長がみやび達バーのスタッフに超高級ワイン「ロマネ・コンティ」の名前を出し、10万円以下のものを注文してくる。みやびは、その社長が通常100万円以上する一般のワインバーでは滅多に取り扱いがない超高級銘柄と、ワイン製造業者の名称にあたる「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)」を混同していると気づき、DRCのリシュブールを提供。社長の勘違いを正そうとするのだが、かえって空気を悪くしてしまうのだ。

 まず、1話冒頭からワインの銘柄と製造業者の名称の違いについて取り上げるのもマニアックだが、さらに驚きなのがリシュブールを提供する際の、各キャラクターのセリフ使いだ。ソムリエ見習いでもあるみやびは、「ブショネ(コルクが原因でワインの品質や香りが劣化する現象)」や「99年のブルゴーニュワインは全般に出来もいいハズだし…」などの専門用語やウンチクを連発。さらに雫が抜栓したてのリシュブールの味わいや香りを引き出すために行った「デキャンタージュ」などもソムリエ用語だ。その他にも、『神の雫』ではワインの産地や作り手、製法に関する豆知識が詰まっており、テイスティングのセリフなどにもワイン漫画ならではのセリフ回しとなっている。漫画と思えない情報量とマニアックさ、それこそが本作がワインの本場フランスで評価された理由の一つと言えるだろう。

中世ヨーロッパ式の遺産相続が描かれる

 『神の雫』のキャラクター相関図をシンプルに説明すると、主人公・神咲雫とワイン評論家・遠峰一青によるテイスティング対決だ。古くは『美味しんぼ』や『ミスター味っ子』など、日本の料理漫画の王道パターンであるライバルとの「グルメ対決」は、ストーリーが作りやすい代わりに定番であるが故、読者から既視感を覚えられてしまいやすい。

 本作のユニークな点は、このグルメ対決の構造をとりながら、ワイン評論家・神咲豊多香が遺したワインコレクションを巡る周囲の人間模様や兄弟の確執を描いた点だ。

 現代の日本では、兄弟が複数名いる場合遺産を分割するのが一般的だが、中世ヨーローパでは国によって長子相続を実施していた国もある。神咲豊多香にとって、神咲雫は実子。そして作中、ワイン評論家・遠峰一青もまた、実子だったことが判明する。双方、遺産のワインコレクションだけでなく、父親に対する積年の想いがあり、「神の雫」は文字通り因縁の対決だったのだ。実際、中世ヨーロッパを題材にした小説では、しばしば兄弟間での毒殺や、後継者の座を狙った血で血を争う親族争いが描かれることも多い。日本の漫画の王道であるグルメ対決に、ユーロッパならではの家長争い要素を入れたこともまた、欧米で本作がここまで人気を博した要因なのかもしれない。

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