【漫画】もしもシンデレラがトー横に転生したら? グリム童話を大胆リミックス『メルヘン・ガール・ランズ!!!』

【漫画】シンデレラがトー横に転生したら


――Xでの反響はいかがですか?

アベンゼン:1巻が5月に出たのですが、それの宣伝も兼ねて投稿し始めたんです。1話から順番に出し始めて2話目くらいから伸び始めてよかったなと。

 反響は自分の体験と照らし合わせながら長文で語ってくれている人がいるな、という印象です。舞台が現代の東京なのでシチュエーションだし、2話の主人公・シンデレラもただの地雷系の女の子として登場するので、自分を重ねて読めるのかもしれません。

――「メルヘン作品のリミックス」といったような本作の着想について教えてください。

アベンゼン:物語やシナリオの型って昔から出揃っていて、その原型は神話や民話の口承物語にあると思っていて。そこから派生して優れた小説や映画が登場するのかなと。そのなかでも一番の根元にあって親しまれているのが童話。ちょうどリメイク版『白雪姫』が興行的に失敗したのもあって、自分がやるぞと題材をこれに決めました。

 あと僕はゲームの仕事をしていたこともあるのですが、2度ほど童話を主題にした作品を扱ったことがあったんです。その時に童話から新しいシナリオを作ることに興味を持っていたこともきっかけ。漫画の企画会議で「メルヘンのキャラが現代日本にやってくる」というアイデアを出したときも反応がよかったですね。

――童話の再構築のどこに興味を?

アベンゼン:作り直すというより、再解釈というか「今やるならどうなる?」と時代時代で考えている気がします。『グリム童話』も当時のドイツにおける国民意識の形成、という流れのなかで編纂されて物語がまとまったんですけど、それを今編纂したら別物になるはずなんですよ。

――「桃太郎」のリミックスは数多いのですが、なぜ「グリム童話」に惹かれるのでしょう。

アベンゼン:日本のモチーフも大好きでそういう作品も作ったりはしてます。ただ『メルヘン・ガール・ランズ!!!』に関しては日本の若い女性が人生に自分のなかのヒロインとして、ヨーロッパの古い民話のキャラクターを思い浮かべると思うので、それを今の話として描き直したかったんです。

――日本に落とし込む際にトー横を舞台にした理由も教えてください。

アベンゼン:物語のなかって居心地がいいのですが、それと真逆にある人間性から離れた、よそよそしい場所であるトー横を紐付けたら相反する要素が物語的なエネルギーを生むんです。苦しい現実に物語を添えると、それを乗り越えるための力になる。

 実際に現地へ取材もしました。みんな「来たくて来ているんじゃない」と言うんですよ。だけど「居場所がここしかない」とか「誰かとのつながりで来ている」と言う。僕は彼らのために描きたいし、そこから新しい何かを作らないといけないなと。

 コンカフェ嬢の子で本作を熱心に読んでくれている方がいて、その子は「シンデレラ頑張れ!」とずっと言ってくれてます(笑)。嬉しいですね。

――作画のユービックさんとはどのようにコミュニケーションをとられていますか。

アベンゼン:僕は以前ボカロPをしていたんですよ。その時にアートワーク描いてもらっていたのがユービック。かれこれ15年以上ともに活動している相棒なんです。ただハードボイルドなアクションやSFが描くことが多くて、現代の可愛い女の子を描くことが少なかったんですよ。

 だからキャラデザインや服の感じとかをたくさん描いてもらい、細かく一緒に研究しながら擦り合わせましたね。特にファッションに関しては一緒にトー横の子たちを観察しながら話しました。

――ちなみにバトルシーンで流れる曲は?

アベンゼン:僕が大好きなJET「Are You Gonna Be My Girl」です。あれは戦っているように見えて、白雪姫がシンデレラに対して、「こっち側に来てよ」という誘いをかけているんですよ。

 楽曲ネタはちょいちょい出てきますね。各エピソードのサブタイトルも楽曲のタイトルです。

――脚本で苦労されるのはどういったですか。

アベンゼン:やはり原作の研究ですね。特に「赤ずきん」の研究って全然進んでないんです。僕らが知っているストーリーは原典とは全然違っていて、一部「狼と七匹の子山羊」が混ざっているんですよ。

 その歴史を遡ると、ノルウェーの短い詩に行き付くんです。内容は「森に入ると狼がいてあぶないぞ。襲われたらひどい目に遭うぞ」という感じのバッドエンド。でも、さらに原型があるかもしれないらしいんですよ(笑)。だからまだまだ研究の余地が多いんです。

 僕も調べていますが、原典がドイツ語だったりするので、そこが漫画制作で一番大変で。グリム童話を採集した人さえも「誰かから聞いた話」なので追いかけても究極的にはつかめないんですけど。

――今後『メルヘン・ガール・ランズ!!!』はどのように描いていきますか。

アベンゼン:今ちょうど物語的な山場を迎えています。原典がわからない以上は童話って生き物ですから、僕もカメラを持って追いかけているような状況。大変ではあるのですが、これを潜り抜けると自分自身も物語体験ができるんです。この得難い体験を読者の方と一緒にしつつ、体調に気を付けて頑張っていきたいですね。

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