『メダリスト』は“令和のスラムダンク”なのか──心を揺さぶる師弟ドラマと“教材レベル”の名言たち

『メダリスト』は“令和のスラムダンク”?

 フィギュアスケートの世界を描いた人気漫画『メダリスト』(つるまいかだ/講談社)の最新第13巻が6月23日に発売された。2020年から青年漫画誌「月刊アフタヌーン」で連載が始まった同作は、「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門で第1位を獲得。スポーツ漫画の新たな金字塔として存在感を放っている。

 物語は、プロスケーターの道を断念した元アイスダンス選手・明浦路司と、親に反対されながらもスケートへの情熱を燃やす少女・結束いのりが出会うところから始まる。全日本を目指すには5歳から始めて当然とされる競技において、小学5年生でスケートを始めるという“遅すぎるスタート”を切ったいのり。しかし司は、彼女の中に“リンクへの執念”を見出し、コーチとなることを決意する――。

 13巻では、そんな『メダリスト』の物語が大きな転換点を迎える。舞台は「全日本ジュニア」。いのりは憧れでありライバルでもある天才スケーター・狼嵜光とついに同じリンクに立つが、ミスを連発して惨敗を喫する。作中で初めてといっていいほどの大きな挫折を味わう展開だ。逆に光は、コーチであるかつての金メダリスト・夜鷹純の「コピー」ではなく、自らの意思で滑る「狼嵜光」として生まれ変わる。演技中に見せた“心からの笑顔”はその象徴的な描写で、氷上で初めて自分の心と向き合った瞬間だった。

 こうした「光」と「影」を丹念に描くのも、『メダリスト』の特徴である。そして13巻でひときわ色濃く描かれるテーマが「レジリエンス(困難から立ち上がる力)」だった。2014年ソチ五輪で浅田真央がショートプログラムで16位に沈んだ後、フリーで奇跡の演技を見せたことを思い出した読者もいたかもしれない。いのりがどう立ち直り、再び光を超える覚悟を持って金メダルを目指していくのか――次巻を心待ちにしたくなる展開だ。

 『メダリスト』の魅力は、師弟の成長物語にあるが、「私はそれを諦める理由に絶対しない」「ダメじゃない部分がある自分になりたい」「今日俺はあなたを金メダリストにする」といった名言集は、教育的観点からも絶賛された平成の名作『スラムダンク』を彷彿とさせる。中でも印象的だったのが、いのりの初めての大会直前のシーンだ。限られた練習時間を大技の習得にあてるか、基礎技術の向上にあてるかを迷う彼女に、司が語りかけた言葉は、「あなただけの行き先を他人にいいように決められない選手になってほしい」「あなたは大切な人生をかけているんだ」「あなた自身が自分の選択を軽んじてはいけないよ」と自立を促しながら、それでも「どっちを選んでも、俺はあなたを勝たせる」と力強く断言するシーンに、胸を打たれた読者も多かっただろう。

 師弟を描いたスポーツ漫画といえば、昭和の名作『エースをねらえ!』も思い出されるが、『メダリスト』には“令和的”な指導者像が明確に描かれている。司には“宗方仁”のような圧倒的なカリスマ性は持たない。むしろ、未熟さや葛藤を抱えた等身大のコーチとして描かれており、厳しさよりも「寄り添い」を重視したスタイルが特徴的だ。それでいて「俺の意思を読もうとするな」と突き放す場面もあり、柔らかさと厳しさのバランス感覚は、まさに今の教育やコーチングに求められる姿そのものと言える。

 スポ根の要素を内包しつつも、豊かな教育的視点を持ち合わせ、まるで人生の教科書のように読める『メダリスト』。読者の間では“義務教育に導入すべき”という声すら上がっている。

 教材としても使えるほどの深さを持ちながら、エンタメとしての熱量も申し分ない。今年1月には待望のアニメ化も実現し、今後の展開にも目が離せない作品である。

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