“創作すること”を描く漫画がトレンドに 『ルックバック』『これ描いて死ね』に続く注目作『どくだみの花咲くころ』

一杯の茶碗から自然現象を見出すように……
第1話では、信楽がクラスメイトたちを凝視して、彼らをモチーフとした草人形を作っていることが明らかになる。そしてその後も公園で見つけたセミの抜け殻や、クラスメイトが飼っている小さなカメなど、さまざまなものを凝視する姿が描かれていく。その際の信楽は、清水が「ゾーンに入る」と表現するほどの集中力だ。
他方で清水もまた、鋭い観察眼をもっている。だからこそ信楽の繊細な心の動きを見逃さず、上手く付き合っていくことができる。時には信楽以外に目を向けることもあり、2巻では普段自分たちを見守る側である教師たちを逆に観察し、通知表をつけていくというエピソードも描かれていた。
さらに象徴的なのは、2人が夏休みに読書感想文を書く回だ。そこで清水は、物理学者で文学者でもある寺田寅彦の随筆「茶わんの湯」を取り上げる。目の前にある一杯の茶碗を観察し、さまざまな自然現象の仕組みを見出していくという内容なのだが、ここからいくつもの意味を連想せざるを得ないだろう。つまり清水が信楽に向ける視線も、信楽が創作のために人間や動物に向ける視線も、一杯の茶碗から自然現象を見つけ出す視線とよく似ている。
そしてこうしたテーマは、同作の作風自体とも関係している。観察=創作という図式を、作者自身が実践しているように見えるからだ。
たとえばキャラクターの描き方でいえば、信楽の話し言葉はフィクションの登場人物とは思えないほどにリアルで、その挙動も妙に生々しい。清水が信楽の家に行ったとき、粉を後入れしたじゃりじゃり食感のミロが出てくる場面など、実際に体験したことを描いているとしか思えない解像度の高さだ。つまり作者は世界を徹底的に観察することで、漫画のなかに独特のリアリティを生んでいるのではないだろうか。
世間的には創作といえば、ものを生み出すことだと思われているが、実際にはむしろ世界を隅々まで観察し、その細部に気づくことに本質がある……。同作はそんな発想の転換を伝えようとしているのかもしれない。
観察というテーマから、創作について捉えなおした独創的な漫画『どくだみの花咲くころ』。2人の小学生たちがこの先どんな道をたどるのか、気になる人はぜひ単行本を手に取ってみてほしい。























