【漫画】懐かしきゲームセンターの“喧騒” モラトリアム期の若者の哀愁描く『スチロンアースは哀しき獣』

"ゲームセンターから卒業する"という現象
――『スチロンアースは哀しき獣』はもともと10年前に制作された作品とのことですが、制作した時の状況を教えてください。
西倉:本作のベースは2015年に開催された「コミティア111」に向けて描いたものです。この時からゲームセンターの閉店ラッシュについては考えていて、それと同時に自分自身もゲームセンターから足が遠のきつつあったタイミングでした。だから「“ゲームセンターから卒業する”という現象を少しホラー仕立てで描いてみよう」と思い、制作を決めました。
――なぜ今回リメイクしようと思ったのですか?
西倉:6月1日に行われた「コミティア152」に向けて、過去に描いた漫画をまとめた作品集を制作しました。その中に本作を収録しようとしたところ、当時の作業ファイルがほぼ編集できない状態のものしか残っていませんでした。そのまま収録するのが難しかったので、練習も兼ねて全ページを描き直してみました。
――具体的に変更した箇所は?
西倉:作画に関してはフルリメイクと言って良いです。ストーリーの流れは、細かいセリフのニュアンスを少し変更しただけで、基本的に当時のままです。
ラストは不幸か?
――ストーリーについて聞かせてください。まず本作の世界観はどのように作り上げていきましたか?
西倉:世界観はまさに2010年代の、どこにでもあるような小さなゲームセンターを舞台にしました。そんな“どこにでもあるゲーセン”が次々と閉店していった時期でもあります。また、“モラトリアムの瀬戸際にいるような男子たち”をイメージして、キャラの設定を決めていきました。
――哀愁あふれるストーリーは見事でした。
西倉:本作は少しトリッキーな構成になっていますが、とにかく「“スチロンアース”って何なんだ?」という気持ちにさせようと思っていました。そもそも造語ですし、まったく意味のない単語です。ゲームに登場するキャラクターの名前や用語なんて社会ではまったく必要とされませんが、「そういう単語にこそ“楽しかったあのころ”の思い出が詰まっているんじゃないか」と思っています。そんな感じで、はみ出し者たちの別れの物語になりました。
――切なさを覚えるラストも印象的でした。
西倉:ラストは人によっては悲劇的な話に見えるかもしれません。ただ、離れ離れになった3人は、それぞれ幸せにやっているのかもしれません。
――そんな“社会では役に立たない知識”のスチロンアースですが、キャラデザはどのようにして決めていったのですか?
西倉:格闘ゲームで言うところの“投げキャラ”をイメージして、大柄なキャラクターにしようと思っていました。ストーリー上、人間ではなくファンタジーな存在にする必要があったので、少し可愛げのあるクリーチャーのような感じをイメージして描いています。また、単眼なのは「描いてみたかった」からです。
――デザインで言えば、キングプラザも「ザ・ゲーセン」が表現されていました。
西倉:キングプラザは、友人が店長をしていたゲームセンターがモデルです。80~90年代のゲーセンブームの時にできたであろう小さな店ですが、常連が多く毎日がお祭り騒ぎの空間で、私も心から楽しんで通いつめていました。残念ながら、そのお店も2013年に閉店しました。
「ゲームが好き」という共通言語
――ゲーセン愛を感じられる本作を制作された西倉さんですが、西倉さんにとってゲーセンとはどのような場所ですか?
西倉:私がゲーセンに通い始めた2000年ごろは、まだネットがそこまで普及しておらず、ゲーセンごとに独自の文化があって、いくつもの小さな社会がありました。そこには子どもから大人、オタクからヤンキーまでいろいろな人がいましたが、みな「ゲームが好き」という共通の言語で繋がっていて、それによって学校では出会えないような人脈ができたりしました。
――多様な人が同じ“好き”を共有できる空間と。
西倉:はい。私にとってゲーセンは“学校と対極にある秘密クラブ”のような場所でした。学校では教えてくれない、大して役に立たないことを大変多く学ばせてもらいました。
――先ほども話に出ましたが、ゲーセンの閉店・倒産が加速しており、ゲーセンという文化が徐々に失われつつある状況をどう感じていますか?
西倉:とても残念ですが、「仕方ないことなのかな」とも思います。単純にビジネスとして昔ながらのゲームセンターのやり方では厳しくなりましたし、ゲームというもののあり方も日々変化しています。ゲーマーにとっては現代のほうが快適にゲームができる環境が整っていますし、同じ趣味の人だって簡単に見つけられます。
――確かに、わざわざゲーセンに通う必要性も薄れてしまいましたよね…。
西倉:だからこそ、そんな時代でも、まだ営業を続けてくれている昔ながらのゲームセンターには頭が下がります。1つでも多くのお店が盛り上がり、存続してほしいなと思っています。私も引き続き遊びに行かせていただきます。
――今後の漫画制作における展望など教えてください。
西倉:『スチロンアースは哀しき獣』も収録した個人作品集『多分洋々 西倉新久短編集』が無事完成しました。本作のようなヒューマンドラマが好きな人なら、ぜひ読んでほしい一冊です。当面はコミティアなどの同人誌即売会に参加しながら少しずつ販売していきますが、近日中に通販や電子版の販売も開始する予定なので、興味がありましたら私のSNSなどを定期的にチェックしてもらえればと思います。商業活動も頑張ります。今後はより一層、さまざまなジャンルの漫画をお届けしたいです!
























