高橋一生の2次元キャラ再現はもはやスタンド能力? 『岸辺露伴は動かない』の恐るべき演技力

荒木飛呂彦による原作漫画『岸辺露伴は動かない』実写化作品として、原作に対する再現とリスペクトあふれるオリジナル要素の完成度が名高いドラマシリーズ(NHK総合)第1期を見て最初に思ったことがある。あれ、高橋一生はどんな声の持ち主だったか?
例えば普段からよくテレビ画面上でリクルートエージェントのCMに出演する高橋一生を目にするが、柳楽優弥とともに転職エージェント役の高橋は、ささやき声の時でさえまろやかな地声が魅力的な人ではなかったか。なのに、『岸辺露伴は動かない』ドラマシリーズでナビゲーターとなる主人公の漫画家・岸辺露伴を演じる彼は、奇妙キテレツ極まりない声色である。それは奇妙という一語を含む代表作『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズがある荒木飛呂彦が創出した人気キャラクターを演じる上での、役作りという名のリスペクトを徹底した礼儀だと言われたら、これはただちに納得できる。
ドラマ第1期第1話「富豪村」で最初に登場するのは、岸辺露伴邸に忍び込んだ二人組の泥棒である。原作の世界観を誰の目にもわかりやすく実写化ベースに置き換える最初の案内役だ。言わば、物語全体のナビゲーターである岸辺露伴に関係する物語をナビゲートするための役回り。脚本家・小林靖子が苦心しながらも楽しげに考案したという導入場面でもある。二人組の泥棒を演じる中村まこと&増田朋弥コンビもお決まりのキャスティングとして原作ファンから愛され、各期冒頭話で定番化するのだが、このユニークな導入によって岸辺露伴役として初登場する高橋一生の第一声がより明確に、クリアに導かれる。
2次元キャラを完璧に召還できるスリーディメンション俳優
カメラが下手から上手へ暗い邸内をなめらかに横移動する。窓から侵入した泥棒たちを捉える。泥棒のひとりが露伴のデスクに置かれた原稿を手にして驚愕する。まさか泥棒に入った豪邸が、かつては愛読していた漫画家の自宅だったとは。泥棒の手元がガタガタふるえ、どこからともなく露伴の第一声「おい!」。ろうそくに灯りをつけて姿を現す露伴が毒づく。そのねっとり持続する声色。露伴役の深層世界まで完全に潜り込み、肉体改造でもするような演じ込み方の高橋の凄み。岸辺露伴役の高橋一生の声であって、高橋一生の声ではない(気がする……)。岸辺露伴が高橋一生を声帯模写(?)。みたいなあべこべが平然と演じられる。
このシリーズの高橋一生は、漫画内の2次元キャラクターを完璧な空気感で召還できるスリーディメンション俳優である。その天才の技を単に憑依型の演技などと形容してはもったいない。さらに第2期冒頭話である第4話「ザ・ラン」を一応確認しておく。今度は泥棒ではなく不動産屋。岸辺露伴を「岸田御飯先生」と名前を間違えて土下座する不動産二人組に対して、露伴がくいっと横を向いて「それで」と用件を聞く。この一言を発する声色からももはや役を演じる高橋一生は感じられない。ただそこには3次元の岸辺露伴がいる。随所で高橋一生の声色は研ぎ澄まされ、その身体は岸辺露伴に委ねられる。台詞の呼吸感が原作の世界観を立ち上がらせる、恐るべき実写化再現度だ。
劇場版第1弾『岸辺露伴 ルーヴルに行く』(2023)に続き、映画化第2弾となる本作『岸辺露伴は動かない 懺悔室』ジャパンプレミア(2025年5月12日)では、登壇した高橋が「高橋一生役を演じさせていただきました岸辺露伴です」とジョークを飛ばしている。岸辺露伴を演じ、なおかつ岸辺露伴が高橋一生を演じるとでもいうのか。原作に描き込まれた岸辺露伴の造形とビジュアルを完コピしているかというと必ずしもそうではないけれど、でもそれ以上にこれほど魅力的な岸辺露伴その人を3次元化する俳優は高橋を置いて他にはいない。
1997年に『週刊少年ジャンプ』上で発表され、『岸辺露伴は動かない』第1巻最初に配置された「懺悔室」を原作とする『岸辺露伴は動かない 懺悔室』を見れば、なおさらその翻訳能力(3次元化)が高橋一生に与えられた特殊能力“スタンド”(岸辺露伴のスタンドは相手の心や記憶を本にして読み、なおかつ操る「ヘブンズ・ドアー」)なんだと理解できる。























