『攻殻機動隊』最新アニメ、作家・円城塔が脚本担当 小説『Shadow.net』から読み解く原作漫画の濃度と期待

『攻殻機動隊』脚本・円城塔への期待

■『攻殻機動隊』最新アニメ版、円城塔が構成・脚本を担当

  2026年に放送予定のアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』。本作のシリーズ構成・脚本を、作家の円城塔が担当することが先日発表された。   原作漫画版のテイストに近いティザービジュアルや、原作と同じくタイトルの頭に「THE」がつく点などから、士郎政宗のコミックを多分に意識した内容となることが予想される『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』。

士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社)

  そのシリーズ構成・脚本を担当することが発表された作家・円城塔は、以前直接的に『攻殻機動隊』に関する小説を執筆している。  

『攻殻機動隊小説アンソロジー』(講談社)

  それが2017年に刊行された『攻殻機動隊 小説アンソロジー』に収録されている『Shadow.net』である。この作品は、SF小説としても歯応えのある読み心地で、「見る」ことの暴力性とそれが許される条件や、「人形使い」から続くAIたちの増殖ともうひとつのネットの拡張、情報生命体同士のコミュニケーションといった、それだけで一本書けそうな題材を短いページ数にぎっちりと詰め込んだ内容となっている。

  円城塔作品の独特な読み心地も手伝って、『Shadow.net』の内容を一発で理解することは難しい。語り部となっている人物は、ひとまず「わたし」と名乗っている。「わたし」は事故で脳の一部を失い、相貌失認となった。「人の顔を個人として識別できない」という状態になった「わたし」はその脳の特徴を活かし、公安が試験中のドローンを用いた監視ネットワークの一部として、空中から市民を監視している。単に顔認識プログラムで個人の動きをトラックするのではなく、そのプロセスに生身の脳を挟むことで、倫理性が確保される。その「プロセスに挟まる生身の脳」として、「わたし」は膨大なマーカーが市民を識別していく様を、上空から監視し続けている。

  小説の内容は「わたし」の視界を通して描写されるが、途中からなんだか違和感のある展開となっていく。空中を飛ぶドローンを介して監視をしていたはずの「わたし」だったが、とあるトラブルによってドローンは墜落。にも関わらず「わたし」の目線からバトーやトグサ、荒巻といった登場人物たちの言動が説明される。これは一体どういうことなのか……と読み進めていくうちに、物語は意外なゴールに辿り着く。

  ストーリーだけをざっくり説明してしまえばこのような内容なのだが、前述のようにこのストーリーの中にいくつもテーマが挟み込まれている。どれも一筋縄ではいかないものばかりだが、特に「単純に顔認識で市民を監視するのではなく、その背後にそれを認識する人間、ひいては「人間の脳」がなくてはならない」「この問題を解決するため、事故で相貌失認となった人物とドローンのカメラを接続する」という問題の立て方とその解決方法はかなり身も蓋もないものであり、また「顔認識と組み合わせた監視システム」というテーマは原作漫画版の連載時にはさほどフィーチャーされていない。あくまで『攻殻機動隊』をベースとしつつ、現代的なテーマとその解決方法を盛り込んだ形である。

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