最新映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』ライターしげるが見る「ガンダム物語を大規模に語り直す度胸に驚き」

■「動かすことのできない史実」という思い込み

 『機動戦士ガンダム』第1話がああいった形で語り直されたこと、そしてそれをエンジョイしてしまったことに若干の後ろめたさを感じたということは、つまり自分は『機動戦士ガンダム』において語られた一年戦争の物語を「動かすことのできない史実」だと思い込んでいたということだろう。確定した史実がひっくり返ることはない。そもそもフィクションの中の「史実」なのに、一年戦争の年表があまりにも長年ずっしりとした重みを発生させていたがゆえに、なんだか勝手にそう思い込んでいたのだ。

 しかし、『GQuuuuuuX』は「そんなことないよ」と断言し、ド頭から『ガンダム』の物語の前提をひっくり返した。それも「ガンダムってさあ、第一話の序盤でシャアが自分でサイド7に侵入してたらそのまま終わってたよなw」という、オタクのおっさんのヨタ話みたいなストーリーを、リッチな映像と共に大真面目に語ってひっくり返したのである。

 ということで話は冒頭に戻るが、なぜ見た後に猛烈に悔しくなったのかというと、ひとつには「オタクのヨタ話みたいな話からスタートしてるのに、すっげ〜面白かったから」という理由がある。ガンダムのマニアなら、誰だって一回くらいは「第1話でシャアが"若さゆえの過ち"を犯さなかったらなあ」と考えたことがあるはずなのだ。でも、誰もそれを本気で映像化しようとは思わなかった。というか、そもそもそんなことをやっていいと誰も思っていなかったはずだ。少なくとも、自分はそんなことができると思わなかった。しかし『GQuuuuuuX』は、それを堂々とやっちゃったのである。

  見ている時は「マジかよ」と思ったが、しかしその後の展開まで通して見ると、「この物語をやるにはこれしか手がない」という気もしてくる。パンフレット掲載の鶴巻監督へのインタビューを読む限りでは、『GQuuuuuuX』は企画開始当初から「ジオンが勝利した世界線の物語を描く」という案だったそうだ。

■「パロディをやるために集まった集団」のパワー

  つまりそもそも『GQuuuuuuX』は「スペースノイドが勝利したはずなのに、宇宙に住む人々の生活環境や閉塞感はまるで改善されていない」という状況を描くところからスタートする物語だったことになる。それならば、やはり「ガンダム第1話の内容をひっくり返すことから始める」という手段には必然性があると思う。ジオンが勝たなくては企画が成立しないのならば、絶対にアムロをガンダムに乗せてはならないのである。この「ストーリーの内容とオタクの悪ノリが不可分である」というあたりからは、往年のガイナックス作品の匂いとガイナックス主要スタッフの「パロディ筋」の強さを感じた。

 「サイド7にシャア自身が侵入してたらガンダム終わってたよな」というある意味のヨタ話に資金を突っ込み、これだけリッチな映像に仕上げ、見た人間を無理やりにでも納得させる腕力の強さ。これはDAICON FILMという「パロディをやるために集まった集団」からキャリアをスタートさせ、40年以上そのまま仕事を続けている人たちにしか出せないパワーだと思う。このパロディを実現するための剛腕こそが、『機動戦士ガンダム』という作品の「語り直し」を可能にした原動力だったはずだ

 実のところ『機動戦士ガンダム』という作品は、何度か「語り直し」をされてきた。しかしこれまで、この語り直しには資格が必要だった。小説版も『ガンダム』の語り直しと言えるが、なんせこれは富野由悠季監督が自分で書いている。コミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も『ガンダム』を語り直した作品だが、これは主要スタッフだった安彦良和が描いたものだ。もはや「歴史」となっている『ガンダム』の物語を語り直すには、「ま……まあ あんたほどの実力者がそういうのなら……」という、語り手に関する納得感・説得力が必要だったのである。

 『GQuuuuuuX』は、初代ガンダムの主要スタッフ以外によって抜本的かつ大規模に『ガンダム』を語り直した、初の作品なのではないか。そしてそれを担ったのは、パロディ筋を異常発達させ、長年にわたるハードワークで技量を磨くことで「あなたたちがやるなら、いいか……」という説得力を身につけた、かつてのオタク青年たちだったのである。こんなによくわからなくて、なんだか妙に感動的なことがあっていいのか。ガンダムってすごいですね。

「オタクのヨタ話みたいな話からスタートしてるのに、すっげ〜面白かったから」

  ということで、『GQuuuuuuX』は序盤だけでいえば大変面白く、そして「ものすごく腕力のあるオタクのおじさんたちに、無理やり気持ちよくさせられてしまう」ということへの悔しさを感じさせる作品だった。ほんと……オタクのヨタ話みたいなアニメが……こんなに面白いなんて……! この後マチュとニャアンとシュウジの物語がどこへ辿り着くのかはわからないが、ちょっとやそっとの予想や想像では追いつけないくらいのところまでぶっ飛んでいってほしいと思っている。本当に悔しいけれど、続きがものすごく楽しみだ。

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