蔦屋重三郎はなぜ江戸庶民の心を掴んだのか? 元祖・メディア王の仕事術

■謎だらけの写楽の正体とは?

――蔦重は日本の文化史に残る作品を一気に作った。凄まじい人物ですね。

櫻庭:日本の文化史に名を残す人だと思います。蔦重は、歌麿が女性の色気を描けると見抜き、美人画を描くように進言して、自分の家か近所に住まわせてまで活動を支えました。天才的なプロデュース能力、審美眼の持ち主だと思います。特に、東洲斎写楽の役者絵はよく出したなと思いますよ。

――写楽の絵は、当時はまったく売れなかったんですよね。

櫻庭:売れなかったし、役者からも「なんちゅうものを描いてくれたんだ!」と怒られたといいますから、今で言えば大炎上ですよ(笑)。美しい女形ののど仏を描いたのですから、とんでもないことをやったわけです。もっとも、それは蔦重なりの笑いや真実の追求だったのかもしれませんが。

――なぜ、リスクをとってでも、実績がなかった写楽の役者絵を出版したのでしょう。

櫻庭:私は、写楽の役者絵を出したのは、蔦重の挑戦だったと思います。というのも、それまでの浮世絵は女性の顔も一緒、役者の顔も一緒、服の皺も描かない感じで、形骸化していました。そこに、役者の特徴を敢えて誇張して描くことで、見る人に真実を見せたかったのかなと思います。

――そんな写楽の正体は誰なのでしょう。

櫻庭:不思議なことに、蔦重も、周りの作家も、地本問屋たちも写楽の正体をバラしていないのです。私は写楽の正体は北斎だったらいいなと思いますが、歌麿、重三郎が描いた説もあります。一番言われているのが、能役者の斎藤十郎兵衛という説ですが、彼が描いた証拠はないですし、本当にわからないのです。

■大河ドラマで写楽はどう描かれる?

――わからないからこそ妄想が膨らみますし、大河ドラマではどのような設定で描かれるのか気になりますよね。

櫻庭:気になりますね。どう書いても「違う!」と言う人はいるのだから、大河ドラマでは自由に設定を作ってほしいです。私は、写楽は真実を描きたがっていた絵師だと考えています。対する歌麿は、美しいものを描きたかった人。だから、正体が歌麿ではないと思う理由です。ちなみに、北斎は役者の似顔絵を得意とした、勝川春章の弟子でもあります。北斎が春章の弟子として、最後の仕事として写楽を名乗り、役者絵を描いていたらいいなと思います。

――仮に正体が北斎だとしたら、大型新人として売り出しているわけですから、蔦重も何らかの意図があったのでしょうね。

櫻庭:その独特の絵柄ゆえ、下手すら炎上しかねないので、新人の設定で出したのかもしれません。もし世の中に受け入れられたら正体をバラせばいいし、うまくいかなかったから謎の人物のまま終わればいいわけでしょう(笑)。そのへんも蔦重は商売人ですし、考えていたと思いますよ。

――そういえば、今でも似たようなことをしている出版社やレコード会社があります(笑)。

櫻庭:北斎は写楽が活動をしているとき、勝川春朗の名前で役者絵を描いてないのです。その後、春朗はガラッと絵柄を変えて、名前も変えて、その後に北斎の絵柄になる。北斎になってからは役者絵を描いていないし、描いても後ろ姿ばかり。写楽時代によっぽど炎上したので、その後も描かなかったのかなと推測してしまいます。

――ありがとうございました。最後に、櫻庭さんも文筆家として、蔦重のような人と一緒に仕事をしてみたいと思いますか。

櫻庭:魅力的な人だと思いますが、結構強引なところがあるなとは思います。今の時代に生きていたら、敵も多い編集者、出版プロデューサーだったことでしょう。蔦重に任せてみたい企画はありますね。絶対に真面目な出版社では出せないような不適切なテーマを、「売れますかね?」「任せていいですか?」「書いていいですか?」…と、迫ってみたいところです(笑)。

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 大河ドラマ『べらぼう』1〜4話の「本当はこうだった」から今後の展開まで、面白いお話をたくさんしてくださるようなので、蔦屋重三郎についてもっと詳しく知りたい方におすすめの内容。気になる方は下記URLをチェック!
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