松下洸平、読者の前でエッセイ発売の想いを明かす『フキサチーフ』 トークイベント現地レポート
また、挿絵や表紙カバーについても松下自身が描いているという話になると、「『僕、自分で書きます』って言ったのはいいものの、『あれ、絵ってどうやってかくんだっけ?』ってなった」というこぼれ話を披露。とはいえ、もともと「ペインティング・シンガーソングライター」として活動もしていた松下。描きながら、すぐにその感覚を取り戻したそう。
ちなみに、この表紙に描かれた道は実際に歩き探して見つけ出した場所なのだという。どこの地域にもありそうな住宅街で、車が1台通るのがギリギリの絶妙な道幅の坂道。理想的な道をやっと見つけたと嬉しそうに語る表情に、その場にいたみんなが頬を緩ませた。だが、いい気分で描き始めたところ「このへんとかめっちゃ難しくて〜」と半べそをかきそうな声で、表紙の右上部分を指差す。
さらに、帯が付くことを意識して全体の構図を考えていたのだが、描き進めるうちにその存在を忘れてしまったそうで、「道の、ここの、これ! ボコッとしたやつ! これめっちゃ時間かかった! でも、これ、帯をつけたら……きれいに(見えない)」と左下の白い段差スロープを指しながら嘆く。しかも帯で隠れてしまうだけでなく、折りこまれている部分にまでかかっているので、帯を取っても見えにくい事態に。
執筆時間は1回の連載で3〜4時間「大量の直しが…」
だが、どんなに悲しいことや悔しいことがあってもネガティブなままにしないというのが、松下のエッセイからも読み取れるモットーだ。「考え方を変えれば、どこを開いても楽しいということなので」とポジティブにまとめてみせるのだった。松下は、エッセイを書きながら「自分って何なんだろう」と向き合うことができたと続ける。そして「自分が何者かわからなかったこともあった」とも。
そんな紆余曲折を経て「今みなさんが見てくださっている僕が完成形? っていうのかな? これ以上にもこれ以下にもなれないというか。このまんまの自分なんだなって思います。もうちょっとクールなのにも憧れたんですけどね、こんな感じになりました」と笑いを交えながらエッセイを執筆してきた3年半を振り返った。
連載時は、「書くぞ」と決めてから3〜4時間で1本を書き上げていたそう。多忙なスケジュールをこなしながらの連載。とりあえず締切に間に合わせようと「書くだけ書いて提出しようとしたときには大量の直しが入ってきた」とも。しかし、家族の話など、かねてから書きたかったテーマのときは「すぐに書けました」と得意げに。ところが自分で言っていて恥ずかしくなったのか「言っちゃいましたね」とクシャッとした笑顔がこぼれるのだった。
他にも、お気に入りの章について問われると「麤(そ)」という漢字を見つけたときのことをピックアップ。「鹿鹿鹿って書いてある漢字があって。『こんなにたくさんの鹿に会ったのは、修学旅行で行った奈良公園ぶりだった』みたいな。うまいこと言うよねー?」と自画自賛した上に、客席に向かって同意を求めて笑いに包まれる。