【新聞分析】価格据え置き宣言から2年ーー読売新聞の値上げで考える、全国紙としての存在価値と記者の質
「唯一無二の全国紙へ」ーー読売新聞の未来
読売の値上げも、そうした新聞業界全体が直面しているコスト増や部数減といった課題に向かうための施策と言える。ただ、他紙と同じように地方での発行を止めたり、支局を閉鎖したりして部数が期待できる地域に経営資源を集約していくかというと、ここでどうにか踏み止まって、全国紙としての規模を維持し、新聞としての価値を高めていこうといった姿勢が感じられる。
それは、読売新聞グループ本社の山口寿一社長が、唯一の全国紙になることを新聞業界紙のインタビューで公言したり、販売店幹部の集まりに「唯一無二の全国紙へ」といったスローガンを掲げたりしているところからも伺える。今回の値上げも、全国における取材網の維持であり、発行体制の堅持を目的にしたものとも取れる。産経や朝日、毎日が行ったような大量の人員削減の話も、読売からはまだ聞こえてこない。
読売が全国紙としてがんばろうとしていることは分かる。けれども、その全国紙が本当に必要なのか、そもそも新聞は必要なのかといった議論に話が進みそうな雰囲気が、今の新聞やテレビも含めたマスメディア業界を取り巻いている。恣意的な情報を選んで載せるメディアはいらない、生の情報を加工せずのせてくれれば、後は受け取った側が判断する。そうした空気がネットを中心にじわじわと広がり、支持も集めるようになっている。
ニュースはポータルで読むからといった声には、そのニュースを供給しているのは新聞を始めとしたマスメディアだと言えても、恣意性を持った介在は不要といった声に対抗するには、誰もが納得できる結果を見せていく必要がありそうだ。編集方針をしっかりと立て、左右に角度をつけて世論を無理に誘導するような態度を見せないようにしながら、全国に取材網を持つ新聞の存在価値を感じてもらうようにしていくしかないだろう。
地方の県で最近問題となっていることに、県庁や市役所といった行政機関への取材陣から一部の全国紙が撤退し、地域によっては地元紙だけになっている状況がある。地元紙に載るなら十分かというと、単独の取材では視点が偏り場合によっては癒着も生まれ、暮らしている人にとって幸せではない事態が起こらないとも限らない。地方発でも全国の人が必要としているニュースが伝わりづらくなる可能性もある。唯一であっても全国紙が残っていることで、少しは問題の解消につながるかもしれない。
地方での取材網を使って集めた情報を、他の地方のメディアに提供するようなサービスも行うようにして、共同通信社や時事通信社といった通信社に並び、あるいはとって変わる存在になろうとしている。そんな可能性も浮かぶ。読売が時事を買収するといった噂が一時流れたが、その後に目立った動きがないだけに、あり得ない話でもない。
読売新聞と関係が深い日本テレビ系列の読売テレビ、中京テレビ、札幌テレビ、福岡放送が経営統合を発表したのは、ネット配信で存在価値が沈みがちな地方局支援の意味があったが、関係強化によって映像ネットワークの一元化が進めば、そこに載せる情報として、新聞からの全国規模のニュースも価値を持つ。日本一の新聞と、視聴率1位を争うテレビがさらに貪欲に基盤強化を進めていけば、他のメディアグループが追随するのも大変だ。
マスメディア自体の不要論がここでもつきまとうが、日々に発信される膨大な情報の中から大切な情報を選びだし、その真偽を見極める知識や経験を持ち、分かりやすくかみ砕いて発信する能力を持った記者がいれば、情報を受ける側として便利であることは確かだ。そういう記者を確保し育成するためにも、値上げが必要だったとするのなら、あとは実行してくれるかを見守るしかない。やがてAIが情報の取捨選択から解説、発信までを行うようになるであろう。ただ、今は新聞も記者も必要とされている訳だから。